アルデヒド脱水素酵素2遺伝子欠損マウスの非荷重環境下における皮質骨量減少は、骨細胞のPTH受容体発現低下に関連する
雑誌: | Bone. 2018 Feb 23; 110:254-266 |
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- ALDH2
- 非荷重
- PTH受容体
ASBMR2017にて Young Investigator Award受賞
左:筆者、右:酒井昭典教授
論文サマリー
アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)はアルコールの代謝によって生じるアセトアルデヒドを分解する酵素で、日本人の45%はこの酵素が部分欠損もしくは完全欠損している。近年ALDH2欠損と骨粗鬆症の関連が指摘されており、当教室ではALDH2欠損モデルであるAldh2KOマウスを用いて骨代謝研究を行っている。我々はAldh2KOマウスにアルコール摂取させることにより海綿骨量が減少することや、運動負荷による海綿骨量増加効果を認めないことを報告している。本研究では、Aldh2KOマウスにおける非荷重環境下の骨代謝動態を明らかにすることを目的とした。8週齢雄のAldh2KOマウス(KO)と野生型マウス(WT)に対して、1週間の尾部懸垂(TS)群と通常飼育(GC)群の4群が対象で、DXA(大腿骨、腰椎)、大腿骨pQCT、皮質骨および海綿骨骨形態計測、骨代謝マーカー、皮質骨mRNA、皮質骨免疫組織染色による解析を行った。結果として、
1)大腿骨DXA:WTでは骨密度変化なし、KOはTSにより有意な骨密度の低下を認めた。腰椎DXA:いずれも骨密度変化なし。
2)大腿骨骨幹部pQCT:WTでは皮質骨の骨密度低下は認めなかったが、KOはTSにより有意な皮質骨骨密度の低下を認め、更に横断面の形態解析では皮質骨断面積および皮質骨幅の低下を認めた。
3)大腿骨骨幹部皮質骨形態計測:KOはTSにより内骨膜面および外骨膜面の骨形成パラメーターの低下を認めた。
4)脛骨近位部海綿骨形態計測:WTでは、TSによる骨形成パラメーターに変化はなく骨吸収パラメーターの上昇を認めた一方、KOはTSによって骨形成パラメーターの低下を認めるが骨吸収パラメーターの上昇は認めなかった。
5)骨代謝マーカー:KOはTSにより osteocalcinが低下し、CTXに変化は認めなかった。
6)大腿骨皮質骨mRNA:KOはTSによりosteocalcin、PTH receptorの骨形成系シグナルの発現の低下を認めた。
7)皮質骨免疫染色:PTH受容体陽性骨細胞数は、KOでTSにより有意な減少を認めた。
結論として、Aldh2KOマウスは非荷重環境下で骨形成低下による皮質骨の骨量減少を認め、この皮質骨への作用は、骨細胞のPTH受容体発現低下との関連が示唆された。
Fig. 1. Micro CT images of femur diaphysis
Fig. 2. Cortical bone histomorphometry of femur diaphysis
Fig. 3. PTHr immunohistostaining of femur diaphysis(brown staining osteocyte : PTHr positive)
著者コメント
ALDH2はアセトアルデヒドだけでなく、酸化ストレスによって体内で発生するアルデヒドの分解も担っているため、ALDH2欠損は骨粗鬆症だけでなく、アルツハイマー病やパーキンソン病との関連も報告されています。今回の結果をヒトに当てはめると、お酒が飲めない体質の人が寝たきりや下肢骨折に伴う免荷によって非荷重状態になると、特に骨形成が低下することで皮質骨の骨量減少が大きいということになります。日本人はALDH2欠損の割合が高いので、我々整形外科医は患者さんにお酒が飲めるか否かを確認し、特にお酒が飲めない患者さんに対しては、非荷重状態では積極的に骨量減少の予防に努めていかなければならないと実感できました。今後もALDH2と骨代謝の関係について基礎研究、臨床研究を続けて、日本からこの情報を発信していきたいと思います。本研究にあたり、ご指導いただきました目貫邦隆先生、酒井昭典教授、他多くの先生方に心より感謝申し上げます。(産業医科大学整形外科・田島 貴文)