Pax1は軟骨細胞の成熟に対して抑制的に作用する
著者: | Takimoto A, Mohri H, Kokubu C, Hiraki Y, Shukunami C. |
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雑誌: | Exp Cell Res. 2013 Dec 10;319(20):3128-39. |
- Pax1
- 軟骨細胞
- 分化成熟
論文サマリー
Pax1 (Paired box gene 1)は、胚発生過程において体節の硬節で発現し、脊椎骨のパターン形成に重要な役割を担う転写因子である。
Pax1はNk3 homeobox 2 (Nkx3.2)の発現を誘導することにより、初期の軟骨細胞分化を促進することが報告されているが、軟骨細胞におけるPax1の直接的な役割については明らかにされていない。本研究において我々は、Pax1の強制発現が軟骨細胞の分化成熟を抑制することを見出した。脊柱の形成過程において、椎骨と椎間板は硬節に由来する事が知られている。硬節のマーカー遺伝子としても知られるPax1の発現は、椎骨の軟骨性骨原基の形成に伴い軟骨では低下して、軟骨膜と椎間板に限局した。軟骨細胞の分化に必須の転写因子であるSRY-box containing gene 9 (Sox9)は、軟骨だけでなく椎間板でも発現し、形成過程の脊柱では椎間板においてPax1と重複して発現していた。ニワトリ胚の前肢にPax1を強制発現させると、前駆軟骨細胞の凝集から軟骨細胞が分化する軟骨形成の初期過程には影響が認められなかったが、軟骨細胞の成熟・肥大化及び血管侵入を契機とする骨への置換が阻害され、軟骨の成長が著しく抑制された。Pax1を強制発現した軟骨細胞では、プロテオグリカンの蓄積が減少し、Aggrecan (Agc1)の著しい発現低下が認められた。培養軟骨細胞においてPax1を強制発現した結果、細胞形態が軟骨細胞に特徴的な多角型から線維芽細胞様の紡錘型へと変化した。また、Pax1の強制発現により、培養軟骨細胞におけるSox9、Nkx3.2、Indian hedgehog、type II collagen、Chondromodulin-1、及びAgc1といった軟骨マーカー遺伝子の発現が顕著に低下した。Pax1と同時にSox9を強制発現した軟骨細胞では、Pax1を単独で強制発現した場合と比較して軟骨マーカー遺伝子の発現がわずかに上昇したが、軟骨細胞の形質はほとんど回復しなかった。本研究から、Pax1が軟骨細胞の成熟過程を阻害することが明らかになり、さらにSox9の機能に対してもPax1が抑制的に作用することが示唆された。
当研究をさらに進めることによって、椎骨と椎間板の繰り返し構造の形成におけるPax1の役割を解明し、脊柱の組織構築の新たなメカニズムを提唱することを目指している。
著者コメント
私が京都大学再生医科学研究所で勤務を始めた2002年頃は、研究室では、個体レベルでの解析を骨形成の研究に取り入れようとしている時期でした。薬学修士過程を修了したばかりの私は、胚操作など全く未経験でしたが、奈良先端大学院大学の小椋利彦(現東北大学)先生の研究室で習ったニワトリ肢芽への遺伝子導入の実験系を立ち上げ、一連の仕事で薬学博士を取得する機会にも恵まれました。今回の研究は、宿南知佐(現広島大学)先生が脊椎骨形成の研究を行っていたドイツのRudi Balling教授の研究室に留学した際に得た着想に基づいて始まりました。一緒に勤務していた技術補佐員の小路美和さんや、大学院生の毛利公美さんなどの協力を得て、Pax1が軟骨分化に及ぼす影響を報告することが出来ました。開祐司先生や宿南知佐先生のご指導と研究室メンバーのご協力により、このような成果を出すことができたことに心より感謝致します。(京都大学再生医科学研究所 滝本 晶)