日本骨代謝学会

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c-Fos欠損チェルビズムマウスにおける破骨細胞に依存しない骨破壊はMMP14発現マクロファージが起こす

Cherubism mice also deficient in c-Fos exhibit inflammatory bone destruction executed by macrophages that express MMP14 despite the absence of TRAP+ osteoclasts.
著者:Kittaka M, Mayahara K, Mukai T, Yoshimoto T, Yoshitaka T, Gorski JP, Ueki Y..
雑誌:J Bone Miner Res. 2018, 33 (1) 167-181
  • チェルビズム
  • 骨融解性マクロファージ
  • MMP14

橘高 瑞穂
右から二人目が筆者。

論文サマリー

 骨免疫学における現在の定説では、破骨細胞が炎症性骨破壊を担う唯一無二の細胞であるとされている。これは関節炎マウスから遺伝的に破骨細胞を欠損させると骨破壊が完全に消失することを示した過去の研究による、強力な生物学的エビデンスに基づいた定説である。今回私たちは自然発症的に激烈な全身性の骨破壊を呈する炎症性骨破壊モデルマウスであるチェルビズムマウス(Sh3bp2KI/KI)が、c-Fosを欠損させることで破骨細胞の分化を完全に阻害された状態においても破骨細胞非依存性の骨破壊を呈すること、また、SH3BP2の機能亢進とc-Fosの機能喪失の両者によってマクロファージにおけるMMP14が劇的に亢進され、この高発現MMP14が破骨細胞非依存骨破壊に重要な役割を果たしていることを示した。

 我々はまず、チェルビズムマウスから破骨細胞を遺伝的に除去することでその骨破壊が消失するという仮説に基づき、破骨細胞分化に必須であるc-Fosを欠失したチェルビズムマウス(c-Fos−/−/Sh3bp2KI/KI)を作製した。結果、驚くべきことにc-Fos欠損チェルビズムマウスではTRAP陽性細胞は全く検出されなかったにも関わらず明らかな骨吸収像が観察された。c-Fos欠損チェルビズムマウスの骨吸収局所では破骨細胞の重要な骨吸収メカニズム分子であるカテプシンKの活性は検出されなかったが、Ⅰ型コラーゲン分解能を持つマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)のうち、MMP2とMMP14レベルの上昇が確認された。また、骨吸収窩はマクロファージマーカーであるF4/80に陽性の細胞によって埋め尽くされ、マクロファージの骨吸収への関与が示唆された。M-CSF受容体をノックアウトすることにより(Csf1rfl/fl /Mx1-cre)M-CSF依存性マクロファージを欠乏させるとMMP2レベルには変化が見られなかった一方でMMP14レベルは減少し、それに伴い骨吸収も減少した。さらに、MMP14のPEXドメインを標的とした阻害薬の投与によってc-Fos欠損チェルビズムマウスにおける骨吸収量は減少した。また、SH3BP2の機能亢進により上昇していたマクロファージにおけるMMP14発現量はc-Fosの機能喪失によって相乗的に劇的に増強していた。SH3BP2の機能亢進だけでなくc-Fosを欠損することが骨吸収に重要であることを確認するためにc-Fos欠損でない破骨細胞欠失チェルビズムマウスとしてRANKL欠失チェルビズムマウスを作製したところ、その骨吸収量はc-Fos欠損チェルビズムマウスと比較し著しく少なく、またRANKL欠失マウスからさらにc-Fosを欠失させることでその骨吸収像は増加した。以上のことから、c-Fos欠損チェルビズムマウスにおける破骨細胞に依存しない骨吸収はSH3BP2の機能亢進とc-Fosの機能喪失の組み合わせの結果MMP14を高発現するようになったマクロファージによってもたらされる事が明らかとなった。本研究により、破骨細胞以外の細胞が炎症性骨吸収を起こすことが可能であること、そしてMMP14が骨破壊制御における新たな標的になる可能性が示唆される。

橘高 瑞穂
c-Fos欠損チェルビズムマウスでは炎症局所骨表面にTRAP陽性細胞が存在しない(上)にもかかわらず骨吸収が観察された(下)。

著者コメント

 広島大学大学院歯周病態学(栗原英見教授)にてPh.D取得後、カンザスシティの植木先生の研究室へ留学して最初に取り組ませてもらったのがこの仕事でした。骨研究の経験もほぼゼロの状態で、最初は本当に何から手をつけていいのか途方にくれたのを覚えています。『答えはマウスが教えてくれる』という植木先生の言葉を信じ、地道にマウスの掛け合わせと解析を続け、c-Fos欠損チェルビズムマウスの骨破壊には高活性化マクロファージとそれにより発現されるMMP14が重要であるという答えにたどり着くことができました。個人的にはc-Fos欠損マウスとRANKL欠損マウスという二つの破骨細胞欠損マウスで骨吸収の程度にはっきりとした違いが見られたことが答えにたどり着くための大きな分かれ道になったと思います。いつでも僕の納得いくまで思うように研究をさせてくれるボスの植木先生、そして研究をサポートしてくださったラボメンバーの皆様に心から感謝致します。(ミズーリ大学カンザスシティ校 歯学部 口腔頭蓋生理学講座・橘高 瑞穂)