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循環血液中のオステオクリンはC型ナトリウム利尿ペプチドのクリアランスを阻害することにより骨伸長を促進する

Circulating osteocrin stimulates bone growth by limiting C-type natriuretic peptide clearance
雑誌:Journal of Clinical Investigation 2017 Nov 1;127(11):4136-4147.
  • Osteocrin
  • ナトリウム利尿ペプチド
  • NPR-C

金井 有吾

論文サマリー

 ナトリウム利尿ペプチド(NP)の一つであるC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)は、その受容体であるnatriuretic peptide receptor B (NPR-B)に結合し、生体内で内軟骨性骨化を制御する。CNPは骨伸長障害を呈する骨系統疾患の治療薬となり得ることが示されているが、生体内で容易に分解・代謝されてしまうなどの問題があり未だ実用化には至っていない。Osteocrin(OSTN)は近年報告された約130のアミノ酸から成るペプチドホルモンであり、骨組織及び骨格筋から分泌され、且つNPのクリアランスレセプターであるNPR-Cに特異的に結合し、その作用を阻害することでNP活性を増強するとされている。本研究ではOSTNの骨伸長など骨に対する作用及びその作用機序を解明するとともに、OSTNが骨系統疾患の治療薬となる可能性について検討した。

 human serum amyloid P (SAP) promoterを用い肝臓特異的にOSTNが過剰産生されることでOSTNの循環血中濃度が上昇するトランスジェニック(Tg)マウス(SAP-Ostn-Tg)の体長は野生型マウスに比して有意に大きく、その伸長の程度及び血中OSTN濃度はtransgeneのコピー数に比例した。SAP-Ostn-Tgの全身の骨長はいずれも野生型マウスに比して有意に大きく、また脛骨成長板軟骨及びその肥大化層が有意に肥厚し、OSTNは濃度依存的に内軟骨性骨化を促進することが示された。

金井 有吾
10週齢 ♂ マウス4匹の写真(上から SAP-Nppc/Ostn-Tg、SAP-Ostn-Tg、SAP-Nppc-Tg、WT の順)

 次に、SAP-Ostn transgeneを持つCNPノックアウト(KO)マウス及びNPR-C KOマウスを作製したところ、それらのマウスの体長及び骨長は、SAP-Ostn transgenを持たない各KOマウスと同等であり、OSTNの骨伸長促進作用の発現にはCNP及びNPR-Cが不可欠であることが示された。

 更に、同じくSAP promoterを用いることで血中CNP濃度が上昇し、全身の骨の長軸方向への伸長が促進されるSAP-CNP Tgマウス(SAP-Nppc-Tg)とSAP-Ostn-Tgを交配し、両方の血中濃度が上昇したトランスジェニックマウス(SAP-Nppc/Ostn-Tg)を作製した。SAP-Nppc/Ostn-Tgは、SAP-Nppc-Tgよりも有意に体長及び骨長が大きく、その脛骨成長板軟骨及び肥大化層はSAP-Nppc-Tgに比し有意に肥厚し、OSTNはCNPの骨伸長作用を増強することが示された。加えて、SAP-Ostn-Tgの血中CNP濃度は野生型マウスに比し有意に上昇し、更にSAP-Nppc/Ostn-Tgの血中CNP濃度はSAP-Nppc-Tg及びSAP-Ostn-Tgに比し有意に上昇した。

 循環血液中のOSTNはNPR-CによるCNPのクリアランスを阻害し、CNPの作用を増強することで骨伸長を促進することが示された。OSTNの投与は骨伸長障害や低身長を呈する骨系統疾患の治療に有用であり、特にCNPによる治療の補助薬として有用である可能性が示唆された。

著者コメント

 SAP-Osteocrinトランスジェニックマウスを初めて見た時、一目で体長が野生型マウスよりも長くなっていることがわかりました。あの時の感動は一生忘れません。Osteocrinは近年その存在が報告されたばかりのペプチドホルモンであり、生体内での作用を含む多くの点が未解明のままです。NPR-Cのアンタゴニストであるとされてはいましたが、トランスジェニックマウで体長が伸びたことはそれを裏付けていると確信し、あとは一つ一つのデータを丁寧に積み上げていくことだけに集中するのみでした。本研究が、CNPと同様に骨伸長障害に対する治療の一助になればと願うばかりです。多くの先生方からの温かいご指導とご支援、また当研究室の仲間の支えにより本研究結果を発表することができたと思います。今後は更にOsteocrinの骨格筋に対する作用なども明らかにしていきたいと思います。(京都大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌・栄養内科・金井 有吾)