日本骨代謝学会

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多発性骨髄腫による骨痛はV-ATPaseとASIC3を治療標的とすることで緩和できる

Bone Pain Induced by Multiple Myeloma Is Reduced by Targeting V-ATPase and ASIC3
著者:Masahiro Hiasa, Tatsuo Okui, Yohance M. Allette, Matthew S. Ripsch, Ge-Hong Sun-Wada, Hiroki Wakabayashi, G. David Roodman, Fletcher A. White, and Toshiyuki Yoneda
雑誌:Cancer Res. 77(6):1283-1295, 2017
  • V-ATPase
  • ASIC3
  • 多発性骨髄腫骨痛

日浅 雅博

論文サマリー

 多発性骨髄腫(MM)は広範な骨破壊を伴う形質細胞の悪性腫瘍であり、罹患したほぼ全ての患者は重篤な骨痛を経験する。しかし、そのメカニズムについては不明であり病態に基づく適切な治療法も確立されていない。多くのがんはWarburg効果によりプロトン(H+)を放出して周囲微小環境を酸性化し、自身の進展を有利に進めることが示されている。H+は強力な発痛因子として知られているがMM骨痛との関連は不明である。本研究では、MMがH+放出により周囲環境を酸性化し骨痛を誘発するかについて検討した。

 ヒトMM細胞株JJN3をマウスの脛骨骨髄に移植すると腫瘍は溶骨性に増大した。腫瘍の増大に並行してJJN3移植脛骨骨髄内での知覚神経の増生、知覚神経細胞体である後根神経節においてpERKおよびpCREB発現上昇による神経興奮の増加、ならびに機械的知覚過敏および熱性痛覚過敏を指標とする骨痛の進行を認めた。またマウスへのpH感受性蛍光色素アクリジンオレンジ投与によりJJN3細胞を移植した脛骨内環境は酸性であることが示された。骨を破壊する破骨細胞はa3V-ATPaseを介してH+を放出するが、JJN3細胞もa3V-ATPaseを発現しH+放出により細胞外環境のpHを低下させた。MM患者から分離したCD138+細胞もa3V-ATPaseを発現していたが、CD138-細胞には発現は見られなかった。腫瘍環境の酸性化を阻害するV-ATPase 選択的阻害薬バフィロマイシン A1(BafA1)、ならびに知覚神経に発現する酸感受性イオンチャンネルASIC3の選択的拮抗剤APETx2はいずれも知覚神経の増生、興奮および骨痛を抑制した。破骨細胞の特異的阻害薬ゾレドロン酸もJJN3脛骨移植による骨痛を抑制したが、末期のMM患者と同様に、MM病変の進行に伴いその骨痛緩和効果は失われた。しかしBafA1の追加投与によりJJN3細胞のATPaseからのH+産出を阻害すると、骨痛は再び抑制された。

 以上の結果から、MMの骨痛誘発には破骨細胞とMM細胞が造りあげる酸性環境が重要な役割を果たすことが明らかとなった。本研究により、破骨細胞やMM細胞からのH+放出に関与するV-ATPaseと、H+を感受する知覚神経のASIC3の制御がMMの骨痛に対する新たな治療アプローチとなりうることが示唆された。

著者コメント

 マウスが痛いと言ってくれるはずもなく、本研究を開始した当初は骨痛の評価法を確立するためマウスのケージの前で試行錯誤の日々でした。本研究は著者がインディアナ大学に留学中に行った仕事になりますが、あたたかく迎えてくださいました米田俊之先生、David G. Roodman先生、分野の垣根を越えてご協力いただきました多数の先生方に心から感謝申し上げます。骨痛の分子メカニズムは、これから徐々に明らかになり発展していく分野と思われます。今後も慢心することなく真摯に研究に取り組みたいと思います。(インディアナ大学血液腫瘍内科/徳島大学大学院生体材料工学分野・日浅 雅博)