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骨粗鬆症とサルコペニアは相互に関連するか?ROADスタディ追跡調査より

Is osteoporosis a predictor for future sarcopenia, or vice-versa? Four-year observations between the second and third ROAD study surveys.
著者:Yoshimura N, Muraki S, Oka H, Iidaka T, Kodama R, Kawaguchi H, Nakamura K, Tanaka S, Akune T
雑誌:Osteoporos Int 28(1):189-199, 2017
  • 骨粗鬆症
  • サルコペニア
  • コホート研究

吉村 典子

論文サマリー・著者コメント

 この論文は私たちが日本の環境の異なる三カ所に設置した3040人からなる運動器疾患予防のためのコホートResearch on Osteoarthritis/osteoporosis Against Disability (ROAD)スタディの第2回調査、第3回調査の結果を用いて、まずサルコペニアの有病率、累積発生率を推定し、次に骨粗鬆症の存在がそれらにどのように影響を及ぼしているのかを明らかにしたものです。

 もともとの発想は、サルコペニアと骨粗鬆症の関連要因が共通していると言うことでした。両方とも高齢者に多い疾患であり、さらに、女性に多い(骨粗鬆症は言うに及ばず。サルコペニアは男女で診断基準が違うので有病率自体は性差がないですが、診断基準のうち、筋量や筋力は男性よりも低く設定されています。)、いずれもやせが強く影響しているという共通点があります。もしこれら骨と筋の疾患で相互関係が認められれば、共通の予防対策がとれる可能性があります。

 有病率や発生率などの疫学指標を推定するためにはまず疾病としての概念が確立している必要があります。私たちがROADスタディを開始した2005年にはサルコペニアの概念自体はありましたが、筋量の測定方法やそのカットオフ値のコンセンサスは得られていませんでした。ヨーロッパのワーキンググループEWGSOPによる診断基準が2010年に発表され1)、2014年にはアジアの基準が発表されました2)。本研究ではアジアの基準を用いて60歳以上の集団を対象として疫学指標を求めています。また本論文での骨粗鬆症の診断は骨粗鬆症の有無は、WHOの診断基準に従い、腰椎L2-4または大腿骨頸部のいずれかが骨粗鬆症と診断された場合をありとしました。

 その結果、サルコペニアの有病率は8.2%(男性8.5%、女性8.0%)(図1)で、同集団における骨粗鬆症の有病率(L2-4か大腿骨頸部のいずれか)は24.9%(男性6.9%、女性34.3%)でした。

 

吉村 典子

 サルコペニアと骨粗鬆症いずれも有りと診断されたのは全体の4.7%(男性1.9%、女性6.2%)であり、サルコペニアと診断された対象者の約6割が骨粗鬆症を合併していることがわかりました(図2)。

吉村 典子

 この集団のうち、4年後の第3回調査に参加し、サルコペニアと骨粗鬆症のいずれも検査も完了しえた767人(男性253人、女性514人)のうち、735人 (男性244人、女性 491人)のpopulation at riskで、4年間でのサルコペニアの累積発生率をもとめたところ、2.0%/年となりました(男性2.2%/yr、女性1.9%/yr)(図3)。サルコペニア発生の有無を目的変数とし、骨粗鬆症(腰椎L2-4か大腿骨頸部のいずれか)の有病状態(0:なし、1:あり)を説明変数として、性、年齢、居住地域(山村、漁村)、やせ(BMI<18.5kg/m2)、飲酒、喫煙の有無を補正して、ロジスティック回帰分析を行った結果、骨粗鬆症の存在は将来のサルコペニアの発生リスクを有意に上げていることがわかりました(図4)が、逆にサルコペニアの存在と将来の骨粗鬆症の発生との関連は有意ではありませんでした。この結果から今の骨粗鬆症を予防することは、将来の骨粗鬆症による骨折予防のみならずサルコペニアの発生にもつながることが示唆されました。

吉村 典子
吉村 典子

 私は骨粗鬆症関係の雑誌ではOsteoporosis Internationalが好きで、書いた論文はまずここに投稿しているのですが、レビュワーに厳しく跳ね返されてどんよりすることもよくあります。しかしこの論文はサルコペニアの疫学にトライしたこともあって、書いていて楽しく、査読もわりとすんなりと通り、骨粗鬆症の分野でもサルコペニアがトピックなのかなと感じました。

 高齢者は骨関節疾患のみならず多くの生活習慣病を合併しており、これらの横のつながりを解明することで、予防活動が有効に働くことがよくあります。今回の論文ではサルコペニアと骨粗鬆症の関連を検討しましたが、私たちは同じくROADスタディの結果の解析から、肥満のみならずメタボの要因の重積が変形性膝関節症の有病、発生、増悪に関連すること、メタボの要因別にみると、高血圧の関与が有意であることなどを報告しています3)4)。また軽度認知障害の存在は変形性膝関節症の発生に関連しているなどの報告もしてきました5)6)(図5)。このような疾患横断的解析が可能なところが、コホート研究の最大の楽しみであり、醍醐味だと思っています。 

吉村 典子

 ROADスタディは来年から第5回調査を開始する予定です。今後も追跡調査を継続し、高齢者のQOLの維持増進に貢献したいと思っています。(東京大学医学部附属病院 22世紀医療センター ロコモ予防学講座 特任教授・吉村 典子)

文献
  • 1) Cruz-Jentoft AJ, Baeyens JP, Bauer JM, Boirie Y, Cederholm T, Landi F, et al: Sarcopenia: European consensus on definition and diagnosis: Report of the European Working Group on Sarcopenia in Older People. Age Ageing 39:412-423, 2010
  • 2) Chen LK, Liu LK, Woo J, Assantachai P, Auyeung TW, Bahyah KS, et al: Sarcopenia in Asia: consensus report of the Asian Working Group for Sarcopenia. J Am Med Dir Assoc 15:95-101, 2014
  • 3) Yoshimura N, Muraki S, Oka H, Kawaguchi H, Nakamura K, Akune T: Association of knee osteoarthritis with the accumulation of metabolic risk factors such as overweight, hypertension, dyslipidaemia, and impaired glucose tolerance in Japanese men and women: The ROAD Study. J Rheumtol 38: 921-930, 2011
  • 4) Yoshimura N, Muraki S, Oka H, Tanaka S. Kawaguchi H, Nakamura K, Akune T: Accumulation of metabolic risk factors such as overweight, hypertension, dyslipidaemia, and impaired glucose tolerance raises the risk of occurrence and progression of knee osteoarthritis: A 3-year follow-up of the ROAD study.Osteoarthritis Cartilage 20: 1217-1226, 2012
  • 5) Yoshimura N, Muraki S, Oka H, Kawaguchi H, Nakamura K, Tanaka S, Akune T:Does mild cognitive impairment affect the occurrence of radiographic knee osteoarthritis? A 3-year follow-up in the ROAD study. BMJ Open at: http://bmjopen.bmj.com/cgi/content/full/bmjopen-2012-001520
  • 6) Yoshimura N, Muraki S,Nakamura K, Tanaka S: Epidemiology of the locomotive syndrome: The Research on Osteoarthritis/Osteoporosis Against Disability study 2005-2015. Mod Rheumatol 27(1):1-7, 2017