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Activin-AはmTORシグナルを活性化し、進行性骨化性線維異形成症 (FOP)の異常な軟骨形成を促進する

Activin-A enhances mTOR signaling to promote aberrant chondrogenesis in fibrodysplasia ossificans progressiva
著者:Kyosuke Hino, Kazuhiko Horigome, Megumi Nishio, Shingo Komura, Sanae Nagata, Chengzhu Zhao, Yonghui Jin, Koichi Kawakami, Yasuhiro Yamada, Akira Ohta, Junya Toguchida, and Makoto Ikeya
雑誌:J Clin Invest. 2017 Sep 1;127(9):3339-3352.
  • iPS細胞
  • FOP
  • mTOR

日野 恭介

論文サマリー

 進行性骨化性線維異形成症 (fibrodysplasia ossificans progressiva、以下FOP)は、筋、腱、靭帯といった線維性結合組織内に骨化巣が出現する非常に稀な遺伝性疾患である。外傷、外科的侵襲、感染などの炎症を惹起するエピソードにより骨化が劇的に進行するフレアーアップと称される現象を特徴とする。有効性の確認された治療剤は存在しない。原因遺伝子は、BMPのⅠ型受容体の1つであるACVR1 (別名ALK2)の経配偶子性点突然変異であることがすでにわかっており、変異ACVR1 (以下FOP-ACVR1)のリガンド非依存的な恒常活性化能や、リガンド依存的な過剰活性化能が疾患の原因と考えられてきた。これら従来の説に加え、私たちとHatsellら米国のグループ はほぼ同時期に、通常はTGF-βシグナルのみを伝達し、BMPシグナルは伝達しない「Activin-A」がFOP-ACVR1を介してBMPシグナルを伝達し、FOPの異所性骨化の原因となりえることを見出している。これに加え、私たちのグループは、Activin-AがFOP-ACVR1を介して異所性骨形成の最初のステップである軟骨の異常形成に寄与することを明らかにしてきた。しかし、その詳細なメカニズムは不明であった。今回、このメカニズムを解析することにより、mTORシグナルがFOPの異所性骨形成のキーとなることを見出し、代表的なmTOR阻害剤である「ラパマイシン」がFOPの治療剤候補となることを同定した。

 まずはFOP患者由来iPS細胞 (FOP-iPSCs)を用いて、Activin-Aに応答して誘導される軟骨分化の程度を発光で検出するスクリーニングシステムを構築し、活性既知、あるいは既承認薬を多く含む低分子化合物ライブラリー 約7000点に対するスクリーニングを行い、化合物ベースでFOP細胞の異常な軟骨分化に重要なシグナルカスケードの探索を試みた (図1)。その結果、すでに報告のあるステロイドやRARγのagonistに加え、mTOR阻害剤が多くヒットしたことから、mTOR阻害剤に着目し、今後の研究を進めることとした。

日野 恭介
図1:スクリーニングの実施とmTOR阻害剤の同定
左図:スクリーニングの概略/右上:1次スクリーニングのデータ/右下:FOP細胞とActivin-Aを用いたin vitroの軟骨分化アッセイでの各mTOR阻害剤の作用
Hino et al., Journal of Clinical Investigation 2017を改変

 まず、代表的なmTOR阻害剤であるラパマイシンがFOP-iPSCsを用いたin vitroの軟骨形成を顕著に阻害することを確認した。次に、ラパマイシンのin vivoでのFOPの異所性骨化に対する作用を確認するため、全身でhFOP-ACVR1をconditionalに発現するFOPモデルマウスを独自に作製した。このマウスはActivin-AやCardiotoxinによる炎症刺激で異所性骨を形成するが、ラパマイシンの投与でほぼ完全に異所性骨形成が抑制された。さらに、筆者らは先行研究 (Hino, et al., PNAS 2015)において、FOP-iPSCs由来の間葉系間質細胞 (iMSCs)とActivin-A発現細胞を免疫不全マウスに共移植することで、マウス体内でFOP患者由来細胞による異所性骨を作製することに成功しているが、この異所性骨モデルに対してもラパマイシンは顕著な抑制効果を示した (図2)。

日野 恭介
図2:FOP患者由来細胞がin vivoで骨化する「ヒト化FOPモデルマウス」でのラパマイシンの薬効
Hino et al., Journal of Clinical Investigation 2017を改変

 最後に、FOP細胞では、Activin-A刺激による軟骨分化誘導時に、FOP-ACVR1を野生型に遺伝子修復したcontrol細胞と比較してmTORシグナルが亢進しており、mTOR阻害剤実験に加え、siRNAを用いたKnock down実験の結果からも、mTORシグナルがFOP細胞における軟骨分化に非常に重要であることを示した。また、トランスクリプトーム解析の結果、Activin-A/FOP-ACVR1とmTORシグナル活性化の間にENPP2 (別名Autotaxin)の発現増強を介していることを見出し、Activin-A/FOP-ACVR1/ENPP2/mTOR axisの活性化がFOP病態に必須であることを見出した (図3)。

日野 恭介
図3:FOP病態における分子カスケード

著者コメント

 私は約4年半前に大日本住友製薬株式会社から京都大学iPS細胞研究所 (CiRA)へと派遣され、FOP患者由来iPS細胞を用いた病態解明及び創薬を目標として研究をスタート致しました。戸口田淳也先生及び池谷真先生に熱心にご指導頂きました結果として、まずはFOPの病態解明に関する論文を出すことができ、そして今回FOPの治療剤候補「ラパマイシン」を同定することができました。また、この成果を元に、京都大学医学部附属病院において医師主導治験を行うことが決まっており、微力ながらもFOP研究のお手伝いができたことを大変嬉しく思っております。今年はヒトiPS細胞の樹立から10年の節目を迎えており、創薬研究の一部にiPS細胞を用いた例はすでにいくつか報告されておりますが、私たちのように、in vitroのハイスループットスクリーニングからin vivoでのFOP患者由来異所性骨形成マウスモデルでの薬剤評価までiPS細胞をフル活用し、しかも同定した薬剤候補を用いて臨床試験まで実施するのは世界初だと思います。今後も少しでも患者さんのお役に立てるよう、iPS細胞を用いた疾患研究や創薬研究をますます推進していきたいと考えております。(大日本住友製薬株式会社 研究本部 疾患iPS創薬ラボ・日野 恭介)

謝辞

 本研究は、京都大学iPS細胞研究所 戸口田淳也 教授及び池谷真 准教授と大日本住友製薬株式会社との共同研究で成し得た成果であり、派遣先である京都大学にて行われました。また、本研究に用いたiPS細胞樹立のために、ご協力頂きました患者様とそのご家族の皆様に厚く御礼申し上げます。最後になりますが本研究において多くのご支援を頂いた共同研究者の先生方に厚く御礼申し上げます。