日本骨代謝学会

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Scleraxisは筋骨格システムを統合する組織ドメインの成熟に必要である

Scleraxis is required for maturation of tissue domains for proper integration of the musculoskeletal system
著者:Yuki Yoshimoto, Aki Takimoto, Hitomi Watanabe, Yuji Hiraki, Gen Kondoh, Chisa Shukunami
雑誌:Sci Rep. 2017 Mar 22;7:45010. doi: 10.1038/srep45010.
  • Scx
  • Tenomodulin
  • 付着部軟骨

吉本 由紀

論文サマリー

 Scleraxis (Scx)はbasic helix-loop-helix 型の転写因子で、発生・成長過程において、腱・靭帯では持続的に発現し、腱・靱帯付着部の硝子軟骨では一過性に発現する。今回の報告では、ScxのExon 1の大部分をCreリコンビナーゼ(Cre)で置換することにより、新たにScxCre knock-in (KI)マウスを作成した。ScxCre KIマウスではScxの発現領域においてCreを発現し、内在性のScxは不活化されるため、ホモマウスであるScxCre/CreマウスにおいてはScxの発現が欠失する。ScxCre/+; Rosa-tdTomatoマウスでScx陽性細胞の系譜を解析したところ、Scxが持続的に発現する腱・靭帯おいて特異的に赤色蛍光が検出された。Scxが欠失しているScxCre/Creマウスでは、これまで報告されている終止腱や筋間腱だけでなく、靭帯や、一過性にScxを発現する付着部軟骨である膝蓋骨、肋骨、踵骨の低形成が観察された。腱・靭帯では成熟マーカー分子であるTnmdの発現がほぼ消失し、Col14a1, Decorin, Mohawk, Early growth response 1の発現も低下していたことから、組織の成熟不全が示唆された。また、Scx+/Sox9+前駆細胞から形成される膝蓋骨や三角筋付着部においては、Sox9の発現が低下し、Smad1/5及びSmad3のリン酸化の減少が認められた。従って、Scxは、Bone morphogenetic proteinや Transforming growth factor-βシグナルを介して付着部軟骨の形成を制御していることが示唆された。このように、Scxは筋骨格組織のコンポーネントを連結する過程において、持続的に発現する腱・靭帯だけでなく、一過性に発現する腱・靱帯付着部の硝子軟骨の成熟も制御していることが明らかになりました。

著者コメント

 今回の論文では、2013年にDevelopment誌に発表した”Scx+/Sox9+ progenitors contribute to the establishment of the junction between cartilage and tendon/ligament”に関連した内容を報告しています。前回と今回の研究を通して、腱・靱帯と軟骨の連結部はScx+/Sox9+前駆細胞から形成され、その過程にはScxとSox9の両方が必要であることを示すことが出来ました。ScxCreKIマウスの作成では、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の渡邊仁美先生と近藤玄先生はじめ、滝本晶先生、開祐司先生にも大変お世話になりました。Scxの欠失による腱の形成不全については、米国のDr. Ronen Schweitzerらのグループが報告していますが、私達は、表現型はそれだけではないと考えて、細胞系譜の解析と並行して、組織レベルでの解析を慎重に進めてきました。京都大学から広島大学への移動によって、思ったよりも時間がかかってしまいましたが、今回、論文の形で発表することができて大変嬉しく思います。論文改訂では、宿南知佐先生とも議論を重ねて、納得出来るまで実験を繰り返してデータを追加しました。今後は、生後の腱・靱帯付着部の成熟を制御する分子メカニズムを明らかにしていきたいと考えています。(広島大学医歯薬保健学研究院生体分子機能学・吉本 由紀)