日本骨代謝学会

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骨細胞に発現するKlothoは骨代謝を調節し骨形成を制御する

Klotho expression in osteocytes regulates bone metabolism and controls bone formation
著者:Komaba H, Kaludjerovic J, Hu DZ, Nagano K, Amano K, Ide N, Sato T, Densmore MJ, Hanai JI, Olauson H, Bellido T, Larsson TE, Baron R, Lanske B.
雑誌:Kidney Int. 2017 Sep;92(3):599-611. doi: 10.1016/j.kint.2017.02.014.
  • Klotho
  • 骨細胞
  • 腎不全

駒場 大峰

論文サマリー

 骨基質の中に存在する骨細胞は,骨芽細胞,破骨細胞とネットワークを形成することにより,骨代謝の維持に重要な役割を担っている。この骨細胞にKlothoが発現していることが近年,報告されている。Klothoは老化抑制遺伝子として発見された因子で,主に腎臓においてFGF受容体と複合体を形成しFGF23の共受容体として機能することが明らかとなっている。しかし骨細胞に発現するKlothoの機能的役割は明らかでない。そこでわれわれはDmp1-CreマウスとKlotho-floxedマウスを交配させ骨細胞特異的にKlotho遺伝子を排除したマウスを作製し,骨細胞に発現するKlothoの役割を検討した。

骨細胞特異的にKlotho遺伝子を排除したマウスは,骨形成の促進,骨芽細胞の分化成熟に関わる遺伝子発現の亢進とともに,著しい骨量の増加を示した。この結果は,老化様症状の一環として骨粗鬆症を呈するKlothoマウス(kl/klマウス)とは相反するものであった。カルシウムやリン,ビタミンD,PTH,FGF23などミネラル代謝に関わる液性因子に有意な変化は確認されず,骨細胞特異的Klotho排除による骨量増加はミネラル代謝の変化による二次的な影響ではなく,骨細胞に発現するKlothoの骨代謝への直接的な影響を反映したものと考えられた。

 次に骨芽細胞様細胞株MC3T3.E1細胞を用いてin vitroにおけるKlothoの影響を検討した。MC3T3.E1細胞は内因性にKlothoを発現していなかったことから,in vivoでの検討とは逆にKlotho過剰発現が石灰化に及ぼす影響を検討した。レンチウイルスによりMC3T3.E1細胞にKlotho遺伝子を過剰発現させたところ,石灰化が著明に抑制されることが示された。in vivoでの検討とあわせ,Klothoは骨形成と骨石灰化を抑制するものと考えられた。既報ではKlothoは血管平滑筋細胞の石灰化を抑制することも報告されており,組織の種類を超えて同じ石灰化抑制作用を持つものと考えられた。

 腎臓に発現するKlothoは腎不全に伴う骨・ミネラル代謝異常の病態においても重要な役割を担っているが,この病態における骨細胞のKlothoの役割は明らかではない。そこでわれわれは,骨細胞特異的にKlotho遺伝子を排除したマウスに5/6腎摘と高リン負荷を行い,骨代謝やミネラル代謝に及ぼす影響を検討した。その結果,5/6腎摘+高リン負荷により二次性副甲状腺機能亢進症と著明なFGF23上昇が惹起されたものの,骨細胞特異的なKlotho排除が骨・ミネラル代謝の変化に影響を及ぼすことはなかった。そこで骨組織のKlotho発現を解析したところ,野生型マウスにおいても5/6腎摘+高リン負荷により骨組織Klotho発現が著明に低下していることが判明し,このため遺伝子改変によるKlotho排除の影響が減弱したものと考えられた。腎不全では腎臓でのKlotho発現が低下していることが報告されているが,同様の変化が骨組織においても生じているものと考えられた。

 以上の結果より,骨細胞に発現するKlothoは局所的,直接的に骨形成,骨石灰化を抑制するものと考えられた。しかし腎機能の低下した状況では,骨組織におけるKlotho発現の低下のため,この影響は限定的になるものと考えられた。

著者コメント

 Klothoマウスは老化促進を背景に骨粗鬆症を呈することから,本研究の計画段階では骨細胞特異的なKlotho排除により骨量は低下するものと予測していました。あるいはKlothoマウスの骨量低下がFGF23作用不全に起因するミネラル代謝の破綻によっても説明可能であることから,骨細胞特異的にKlothoを排除しても骨代謝は何も影響を受けないという可能性も考えていました。ネガティブデータになってもショックにならないよう心の準備をしていた,というのが正直なところでした。ですので,この遺伝子改変マウスが著しい骨量増加を呈することが分かったときは,とても驚きました。同時に論文を執筆する際,この結果をどのように考察すればよいのかとても悩みました。しかし調べてみると,骨量が増加したことは必ずしも過去の知見に矛盾するわけではなく,むしろこれを支持するデータも多くあることに気付かされました。研究はわからない,だからこそ面白いものだとつくづく思いました。帰国後,現在は骨組織特異的にKlothoを過剰発現するマウスの作成に挑戦しており,骨代謝におけるKlothoの役割をさらに解明したいと思っています。
 この論文はHarvard School of Dental MedicineのLanske研究室に留学中の仕事をまとめたものです。人情家のLanske先生をはじめ,留学中親身に支えて下さった研究室のメンバーに心から感謝致します。また研究留学をサポートして下さいました日本学術振興会,かなえ医薬振興財団にも心から感謝致します。(Harvard School of Dental Medicine, Division of Bone and Mineral Research・駒場 大峰)