日本骨代謝学会

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Syntaxin 4aは、基質小胞を介して骨芽細胞による骨基質の分泌を調節する

Syntaxin 4a Regulates Matrix Vesicle-Mediated Bone Matrix Production by Osteoblasts.
著者:Shinji Kawai, Ikumi Michikami, Jirouta Kitagaki, Kenji Hata, Hiroshi Kiyonari, Takaya Abe, Atsuo Amano, Satoshi Wakisaka
雑誌:J Bone Miner Res. 2017 32(3): 440-448
  • 骨芽細胞
  • 骨基質
  • 石灰化

河合 伸治
左から北垣先生・著者(河合)・道上先生・橋野先生

論文サマリー

 骨はコラーゲンやオステオポンチンなどの骨基質およびカルシウムとリン酸の結晶からなるハイドロキシアパタイトからなる。骨の石灰化のメカニズムのひとつとして、骨芽細胞から分泌された基質小胞を核として、ハイドロキシアパタイトが析出することにより石灰化が開始、基質小胞内の結晶が徐々に成長し、骨芽細胞から分泌されたコラーゲン線維へと広がり、石灰化が進行するメカニズムが考えられている。骨芽細胞は基質小胞および骨基質を骨の表面に分泌するが、この分泌に関わる因子は現状では不明である。

 本研究では、骨芽細胞における細胞外骨基質や基質小胞の分泌を調節に関与する因子を明らかにし、その役割を解明することを目的とした。予備検討として骨芽細胞で発現する分泌に関与する遺伝を網羅的に解析したところ、SNARE遺伝子群が骨芽細胞で高発現していることが判明した。SNARE遺伝子のうち、骨芽細胞ではSyntaxin 4a(Stx4a)、Snap23、Vamp8が特に高発現であった。そこでまずStx4aに着目し、研究を進めた。Stx4aの細胞内での局在を観察すると、骨芽細胞の骨と接する側底側の細胞膜に局在した発現が見られた。また、Stx4aアデノウイルスにより過剰発現させると、骨芽細胞によるALP活性染色や石灰化、基質小胞の分泌を増加させ、Stx4a siRNAによるノックダウンは、上記の作用を低下させることが見出された。さらに、BMP-4およびIGF-1は、Stx4aの細胞側底側への局在を高めたが、IGF-2ではその効果が見られなかった。

 Stx4aのノックアウト・マウスは胎生致死のため、Stx4aの骨における機能は明確にされていない。骨芽細胞におけるStx4aの生体における機能を調べるために、骨芽細胞特異的Stx4aコンディショナル・ノックアウト・マウスを作製した。Stx4aの骨芽細胞特異的欠損マウスは、野生型と比べ、ドワーフなマウスで、骨格の低石灰化によるX線透過性の増加、アリザリンレッドによる染色性の低下が観察され、基質分泌の減少による骨減少症を示した。Stx4a骨芽細胞特異的欠損マウスのpQCTによる骨密度は、大腿骨骨幹端の皮質骨と海綿骨における減少および骨幹の皮質骨において減少した。マイクロCT解析により、骨量、骨梁幅、骨梁数では有意な減少が見られ、骨梁間隙の増加が観察され、骨の構造の低下が示唆された。脛骨の骨組織形態計測による骨パラメータ、類骨量、類骨面、類骨幅、骨芽細胞面も減少した。骨パラメータの動的指標、骨石灰化速度、骨形成速度、骨石灰化面、一重および二重標識面の減少が観察された。さらに、これらのマウス由来の初代頭蓋冠細胞は、石灰化の減少および基質小胞の分泌低下を示した。これらの細胞ではStx1bとStx3の発現が増加していることが分かり、他のSyntaxinがStx4aの欠損を補完している可能性が示唆された。我々の研究で、基質小胞および骨基質の骨芽細胞による分泌メカニズムの一部を解明し、Stx4aが骨芽細胞による骨基質産生に重要な役割を果たすことを示すことができた。

河合 伸治
Stx4a 骨芽細胞特異的欠損マウス (A) 骨格標本 (B) μCT (C) 脛骨切片 (D) 骨芽細胞の分泌系

著者コメント

 この研究は、「口の難病」から挑むライフイノベーションのプロジェクトの一環として行いました。Stx4aは、複合体として機能していることが判明しているため、Snap23などの他のSNAREの機能の解析や、破骨細胞にも発現が見られたため、破骨細胞の酸や酵素の分泌系の解析、軟骨細胞による軟骨基質の分泌系の解析が進み、今後、骨関連細胞における分泌系の役割の全体像が把握されることを期待されます。この研究ではコンディショナル・ノックアウト・マウスのホモ・マウスの出生率が低く、解析のための頭数を増やすことが最も苦労した点です。本研究を遂行するにあたり、指導して頂きました諸先生方に厚く御礼申し上げます。(大阪大学大学院歯学研究科口腔科学フロンティアセンター・河合 伸治)