ビタミンD製剤の投与は、主に骨芽細胞系列のVDRを介して骨量を上昇させる
著者: | Nakamichi Y (Corresponding author), Udagawa N, Horibe K, Mizoguchi T, Yamamoto Y, Nakamura T, Hosoya A, Kato S, Suda T, Takahashi N. |
---|---|
雑誌: | J Bone Miner Res. 2017 Jun;32(6):1297-1308. |
- 骨芽細胞系列特異的VDR欠損マウス
- 破骨細胞特異的VDR欠損マウス
- 骨量増加
論文サマリー
骨粗鬆症治療薬である活性型ビタミンD製剤エルデカルシトール(ELD)は、骨吸収と骨形成を抑制し、全体としては骨量を増加させる。一方、活性型ビタミンDは、骨や骨以外の組織に発現するVDRを介して、RANKL、FGF23およびPTHなどの骨ミネラル代謝を担うサイトカインやホルモンの産生を調節することが知られる。したがって、ELDによる骨量上昇効果が、どの細胞種に発現するVDRを介して発揮されるのか明らかではなかった。そこで本研究では、骨芽細胞系列特異的VDR欠損(Ob-VDR-cKO)マウスと破骨細胞特異的VDR欠損(Ocl-VDR-cKO)マウスを作製し、ELDの効果を解析した。
まず、骨組織におけるVDRタンパク局在を調べた(図1A)。Controlマウスにおいて、VDRは主に骨芽細胞と骨細胞に発現していた(図1A)。Ob-VDR-cKOマウスの骨においては、VDR発現がタンパクレベルでもmRNAレベルでも、Controlマウスより著しく低かった(図1B)。一方、他の組織におけるVDR発現は、Controlマウスと同等であった。このように、Ob-VDR-cKOマウスは、骨芽細胞と骨細胞特異的なVDR欠損マウスであることが証明された。しかし、定常状態においては、Ob-VDR-cKO、Ocl-VDR-cKOマウスともにControlマウスに比べ、骨密度および形態に明らかな差異は認められなかった。
図1. 骨組織におけるVDRの発現
(A) VDR免疫染色 (aVDR mAb, Clone D2K6W; Cell Signaling Technology)
(B) 骨組織におけるVdr mRNAの発現 (各群 5匹)
一方、ELD投与は、Controlマウスにおいて海綿骨量・骨密度増加、骨におけるRANKL/OPG発現量比の低下とともに骨吸収パラメーターの低下、および骨形成パラメーターの低下をもたらした(図2B, C)。これらのELDの効果は、Ocl-VDR-cKOマウスにおいても認められたが、Ob-VDR-cKOマウスにおいては全く認められなかった(図2B)。
ELD投与は、骨においてFGF23の発現を上昇させる(図2C)。しかし、Ob-VDR-cKOマウスの骨では有意なFGF23発現上昇を認めなかった。また、ELD投与は、血清カルシウム値を上昇させるが、Ob-VDR-cKOマウスでは血清カルシウム値上昇を認めなかった(図2B)。
以上、ELD投与による骨量上昇効果は、骨芽細胞と骨細胞のVDRを介することが明らかとなった。さらに、骨芽細胞と骨細胞のVDRは、活性型ビタミンD-FGF23-PTHの内分泌制御ループの一翼を担い、カルシウム代謝調節においても重要な役割を果たすことが示唆された。
図2. エルデカルシトールの投与実験
(A) 投与方法 (B) 投与効果のまとめ (C) 作用機構
エルデカルシトール存在下で骨芽細胞を培養しても、RANKL/OPG比は低下しない。in vivoにおけるRANKL/OPG比の低下は、ビタミンD-FGF23-PTHの内分泌制御ループの下流で起こる現象なのかもしれない。
著者コメント
これまで、骨組織におけるVDR局在を示した論文はあまりありませんでした。本研究では凍結切片を用いることで、骨においてVDRは主に骨芽細胞と骨細胞に発現していることを示すことが出来ました。また、本研究のOb-VDR-cKOマウスは、骨芽細胞と骨細胞特異的に高効率にVDRを欠損するマウスであることがわかりました。そのため、定常状態においても骨芽細胞のVDRはFGF23産生において重要であることもわかりました。我々は本研究により、骨芽細胞のVDRの役割を解明する上で、Ob-VDR-cKOマウスという重要な研究材料を提供出来たものと考えております。(松本歯科大学総合歯科医学研究所硬組織疾患制御再建学部門・中道 裕子)