ドーパミン・レセプター D1アゴニストは乳腺腫瘍の増殖および骨転移能を抑制する
著者: | Minami K, Liu S, Liu Y, Chen A, Wan Q, Na S, Li BY, Matsuura N, Koizumi M, Yin Y, Gan L, Xu A, Li J, Nakshatri H, Yokota H. |
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雑誌: | Sci Rep. 2017 Apr 4;7:45686 |
論文サマリー
現在、米国の乳がん罹患者数は8人に1人、日本でも11人に1人といわれている。乳がんは骨に転移することが知られており、抗腫瘍効果と抗骨転移効果を一体として行う効果的な治療法はない。
我々は、1120種類の化合物をスクリーニングすることにより、腫瘍には殺細胞効果が認められ、骨芽細胞や正常乳腺細胞には殺細胞効果が認められない化合物の選定を行う事で、ドーパミン・レセプター D1 (DRD1) アゴニストA77636が新たながん治療薬としての候補になり得ることを見いだした。次に、A77636が乳がん細胞の運動にどのような影響を与えるかwound healing assayとFluorescence resonance energy transfer (FRET) を用いて検討した結果、A77636は細胞運動に関わるとされるsmall GTPaseのRhoA、Rac1の活性を抑制することで細胞運動を抑制していることが示された。一方、破骨細胞の分化に必要であるnuclear factor of activated T-cell cyto-plasmic1 (NFATc1) や破骨細胞の骨吸収に関わるとされるCathepsin Kの発現がA77636によって抑制できることが分かった。最後に、腸骨動脈に腫瘍細胞を接種する方法を用いて、マウスの骨転移モデルを作成し、A77636が腫瘍の骨転移能、生体での破骨細胞分化能、骨形成能に与える影響を検討した。その結果、A77636投与マウスにおいて、骨内浸潤した腫瘍の面積割合、骨組織のTRAP陽性細胞が非投与群に比べて有意に減少していた (Figure 1)。一方、骨形成能は、A77636投与マウス群が非投与群に比べ有意に亢進することが示された (Figure 2)。
Figure 1
TRAP陽性細胞が赤紫色で示されている。Placebo群と比較してA77636投与群のTRAP陽性細胞の割合は減少している。
Figure 2
Calcein染色にて骨形成能を評価している。Placebo群に対してA77636投与群の染色割合が多いことが分かる。
以上のことから、DRD1アゴニストは、乳がん細胞に対して、抗腫瘍効果をもつだけでなく、細胞運動能と破骨分化を抑制することで乳がんの骨転移抑制効果があることが示された。Dopamineを介するシグナル経路が新たな癌治療標的になり得る可能性をここに示した。
著者コメント
乳がんの罹患率は年々増加傾向にあり、また罹患時期もライフステージの中でも仕事や子育てと重要な時期である30 - 50代の女性に多いがんです。本研究が乳がん治療の一助となればと思います。本研究のスタートである1120種類の化合物をスクリーニングする作業ですが、機械でなく手作業で行い苦労しました。当時、肩がものすごく凝っていたことを覚えています。
Indianaでの研究生活の中で多くの方と出会い、自身の考えや研究活動における大きな転機となりました。この機会を与えて頂いた松浦成昭教授、小泉雅彦教授、研究指導頂きましたYokota教授、研究生活を支えてくれた妻と小さな研究者にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。(Department of Biomedical Engineering, Indiana University Purdue University Indianapolis / 大阪大学大学院医学系研究科 放射線治療学講座・皆巳 和賢)