日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 関田 愛子

前立腺がん造骨型転移におけるコラーゲン線維/アパタイト結晶配向化構造の破綻は骨力学機能を低下させる

Disruption of collagen/apatite alignment impairs bone mechanical function in osteoblastic metastasis induced by prostate cancer.
著者:Sekita A, Matsugaki A, Nakano T.
雑誌:Bone 2017 Jan 6; 97: 83-93. doi: 10.1016/j.bone.2017.01.004.
  • 骨配向性
  • 骨力学機能
  • がん骨転移

関田 愛子
写真左より著者、松垣あいら先生、中野貴由先生(ともに大阪大学大学院工学研究科)

論文サマリー

 前立腺がんは高頻度で骨に転移し造骨型病巣を形成するが、造骨型転移を起こした骨組織では骨量増加を認めるにもかかわらず骨力学機能が顕著に低下し、患者の骨折リスク増大をともなう。これは、造骨型がん転移において骨力学機能が骨量以外の因子に支配されることを強く示唆する。

関田 愛子
図1.前立腺癌転移骨におけるコラーゲン線維配向性 (a) および生体アパタイト配向性 (b) の低下

 骨は、主要な構成成分であるコラーゲン線維とアパタイト結晶が規則的に配列し、部位に応じた配向化構造を形成する(Nakano et al. Bone 2002)が、とりわけアパタイト結晶の骨長軸方向への配向度合いを示す骨配向性は、骨力学機能を支配する骨質指標としてその有用性が証明された(Ishimoto et al. J Bone Miner Res. 2013)。

 本論文では、造骨型転移骨における骨配向性の変化およびその骨力学機能に対する関与を明らかにすることを狙いとして、前立腺がん骨転移マウスモデルの大腿骨を用いてコラーゲン線維/アパタイト結晶の配向性を解析するとともに、骨ヤング率をはじめとした材質特性を調査した。コラーゲン線維配向性は、コラーゲン線維の正の複屈折材料としての特性を利用した定量的複屈折測定法により、アパタイト結晶の配向性は、微小領域X線回折法により解析した。この結果、造骨型転移骨においてコラーゲン線維/アパタイト結晶の配向性が顕著に低下することが明らかになった(図1)。アパタイト結晶配向性および骨ヤング率との間には有意に正の相関が見られたことから、骨配向性が骨力学機能を強く支配することが示された。

 さらに、こうした低配向化骨の形成には、骨芽細胞と破骨細胞のカップリングを介した骨モデリングの異変が関与していると考えられたため、組織観察により骨モデリングを解析した。正常骨では、骨表面に一層に配列した骨芽細胞および破骨細胞の規則的な作用によりlayer-by-layerの骨モデリングがおこなわれた一方、造骨型転移骨では、骨内膜・外膜の両側で分化亢進し積層化した骨芽細胞による無方向性の骨形成が起こったことが明らかになった(図2)。骨芽細胞の配列状態は産生骨基質の配向性を直接的に決定する(Matsugaki et al. J Biomed Mater Res A. 2015)ことから、骨表面での骨芽細胞の配列不全が骨配向性低下の要因であることが示唆された。

関田 愛子
図2.骨芽細胞配列状態 (吉木法による類骨染色画像)

 以上より、前立腺がん造骨型転移骨において、骨芽細胞の配列不全にともなう骨の低配向化により、骨力学機能が低下することが明らかになった。

著者コメント

 マテリアルボーンバイオロジーの先駆者である中野貴由先生をはじめとした諸先生方のご指導の下、骨配向性に着目し、造骨型・溶骨型といったがん骨転移における構造・機能・代謝変化の機構解明を目指して研究を進めております。がん骨転移はこれまで専ら医学的観点からの研究対象として扱われていましたが、本論文では、生物学的手法のみならず、材料工学的手法を駆使することにより、骨力学機能低下の本質的要因に迫ることができました。こうした新規開拓領域の研究を通して、分野を超えたアプローチの重要性を学ばせていただいております。本研究の遂行にあたりご指導・ご協力を賜りました先生方および研究室の皆様に厚く御礼申し上げるとともに、今後も医工融合の推進により生命科学の発展に貢献できるよう精進していく所存です。(大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻・関田 愛子)