メダカ骨芽細胞/破骨細胞の微小重力環境に対する初期応答
著者: | Chatani M, Morimoto H, Takeyama K, Mantoku A, Tanigawa N, Kubota K, Suzuki H, Uchida S, Tanigaki F, Shirakawa M, Gusev O, Sychev V, Takano Y, Itoh T, Kudo A. |
---|---|
雑誌: | Sci Rep. 2016 Dec 22;6:39545. |
- メダカ
- 骨
- 重力
論文サマリー
地球上において生体は恒常性を維持する。骨組織はその代表例の1つである。その一方で、国際宇宙ステーションという微小重力環境で人間が生活すると骨量は減少することから、骨代謝には重力という要素が深く関わっていると考えられるが、詳細なメカニズムはわかっていない。興味深いのは1970年代に実施されたスカイラブ計画の実験結果報告で、宇宙飛行士の尿中カルシウム濃度が飛行後少なくとも数日以内で上昇するというものだ。微小重力環境に移行することで体の中の細胞で何が起きているのだろうか。
私たちは宇宙航空研究開発機構(JAXA)などとの共同研究で、4種類の骨関連遺伝子で改変したダブルトランスジェニックメダカ(osterix-DsRed/TRAP-GFP, osteocalcin-DsRed/TRAP-GFP, MMP9-DsRed/RANKL-GFP and TRAP-DsRed/cox2-GFP)を、孵化したばかりの状態で生きたまま特殊な性質を有するジェルの中に入れ、「きぼう」日本実験棟で8日間連続撮影を行った。方法として、宇宙ステーション内に設置された実体顕微鏡にメダカが入った容器をセットし、地上から遠隔操作で写真撮影を行い、メダカのXYZ位置座標を確認し、高倍率で観察した。チームに分かれて24時間の観察を8日間行った。その結果、骨を形成する骨芽細胞で特異的に発現する蛍光のシグナルが、微小重力環境に曝された1日後から大きく上昇し、8日間その発現上昇が維持された。また、骨を壊す細胞である破骨細胞で特異的に発現する蛍光のシグナルが、微小重力に曝された4日後と6日後で上昇が見られた。
また、遺伝子発現レベルの変化を調べるため、メダカ幼魚を用いて無重力環境に曝された2日後のRNAを回収し高速シーケンスを行って解析したところ、骨関連遺伝子の他に新たに5つの遺伝子、c-fos, jun-B-like, pai-1, ddit4, tsc22d3の大幅な発現上昇を明らかにした。
微小重力環境に対する生物個体の初期応答の一端をライブイメージングによる蛍光観察と遺伝子発現解析によって示した世界で初めての成果となった。
著者コメント
この実験は東京工業大学工藤明教授が代表を務めた宇宙実験で2014年に実施されました。通常、ソユーズ宇宙船は打上げから国際宇宙ステーションにドッキングするまで約2日を要しますが、私達の実験で用いたプログレス宇宙船は打上げから約6時間でドッキングする“Fast Track System”という新しい軌道が用いられたため、微小重力環境に対する細胞の初期応答観察が実現しました。一度しかない打ち上げで研究の成果を出すことは容易なことではありませんでしたが貴重な経験をさせていただいたことに工藤先生をはじめ皆様に感謝しています。そして、宇宙に携わる方々との出会いは何にも代えがたい宝となりました。また皆さんと新たな挑戦を共にする日が訪れることを楽しみにしています。(昭和大学歯学部歯科薬理学講座・茶谷 昌宏)