日本骨代謝学会

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生理的な運動は骨形成蛋白の発現増大を介して外傷性変形性膝関節症の進行を予防する

Physiological exercise loading suppresses post-traumatic osteoarthritis progression via an increase in bone morphogenetic proteins expression in an experimental rat knee model.
著者:Iijima H, Ito A, Nagai M, Tajino J, Yamaguchi S, Kiyan W, Nakahata A, Zhang J, Wang T, Aoyama T, Nishitani K, Kuroki H.
雑誌:Osteoarthritis Cartilage. 2016 Dec 10. pii: S1063-4584(16)30468
  • 運動
  • 変形性膝関節症
  • 骨形成蛋白(BMP)

飯島 弘貴

論文サマリー

 変形性膝関節症の病態の中心は関節軟骨の変性であるが、近年では病態の認識が改まり、発症早期より生じる軟骨下骨の構造的変化が、関節軟骨変性を助長することが分かってきている。このような新しい認識の下、我々は適度な運動刺激による変形性関節症の進行予防効果に着目し、研究を推進してきた。そしてこれまでに、内側半月板不安定(Destabilized Medial Meniscus: DMM)モデルラットに緩徐な強度のトレッドミル運動を負荷すると、関節軟骨変性の進行予防だけでなく、軟骨下骨の破骨細胞活性を抑制し、変形性膝関節症の進行予防に寄与することを報告している。

 今回我々は、同DMMモデルラットを用い、緩徐トレッドミル運動による変形性膝関節症の進行予防に、BMPが関与していることを明らかにした。まず、DMMモデルラットに対して、軽度な関節軟骨変性や軟骨下骨の骨吸収が生じる術後4週時まで自然飼育した。その後、2種類の強度(12m/分、21m/分)のトレッドミル運動を1日30分、週5日、4週間に渡り負荷した。すると、緩徐(12m/分)な運動を負荷した場合にのみ、関節軟骨表層におけるBMP、BMPR2、pSmad-5、Id-1陽性軟骨細胞は有意に増大した。そこで、緩徐トレッドミル運動後にBMPの細胞外inhibitorであるGremlin-1を関節内投与すると、Gremlin-1濃度依存的にBMP、pSmad-5、Id-1陽性軟骨細胞数は減少し、緩徐な運動によって生じる関節軟骨変性予防効果や軟骨下骨の骨吸収抑性効果をブロックした。

 以上の結果は、運動は強度依存的にBMP発現を制御し、変形性膝関節症の進行予防に関与することを示唆している。今後は、シグナル経路の解明とともに、ヒト変形性膝関節症患者に対する疾患修飾型治療としての運動療法の開発が期待される。

飯島 弘貴
ラット用トレッドミル(左)と、運動の強度依存的効果(右)。

著者コメント

 私はこれまで臨床的疑問点を基礎研究に落とし込み、そして基礎研究で得られた知見を臨床応用する循環型の研究を心がけてきました。今回、運動刺激による変形性関節症の予防メカニズムの一要因を報告させて頂きましたが、こうした研究成果を広く社会へ発信できましたことは、ひとえに、諸先生方からの温かい御指導のお蔭であり、このような基礎的知見を実学としてさらに発展させることが理学療法士である私の使命だと感じております。本研究に御指導を賜りました京都大学大学院医学研究科の黒木裕士教授や青山朋樹准教授をはじめとする共著者の先生方、研究室の皆様には心より御礼申し上げます。(京都大学大学院医学研究科・飯島 弘貴)