日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 野口 貴明・蛯名 耕介

酸素ウルトラファインバブル水投与は破骨細胞分化抑制を介してマウスのステロイド性骨粗鬆症を改善する

Oxygen ultra-fine bubbles water administration prevents bone loss of glucocorticoid-induced osteoporosis in mice by suppressing osteoclast differentiation.
著者:Noguchi T, Ebina K, Hirao M, Morimoto T, Koizumi K, Kitaguchi K, Matsuoka H, Iwahashi T, Yoshikawa H.
雑誌:Osteoporos Int. 2017 Mar;28(3):1063-1075.

野口 貴明・蛯名 耕介
左より筆者・筆頭著者の野口貴明先生・共著者の平尾眞先生

論文サマリー

はじめに
 本邦では約1280万人の骨粗鬆症患者のうち約8割が未治療とされ、その治療普及率の低さが大きな問題となっている。この一因として薬価や服薬などに対するコンプライアンス不良が考えられ、より安価で利便性が高く、かつ継続率の高い骨粗鬆症予防・治療法が待望されている。

 骨組織は元来低酸素状態であり、高酸素は破骨細胞の分化を抑制し、かつ骨芽細胞の分化を促進し得ることが過去に報告されている。そこで我々は何らかの方法で骨組織の低酸素状態を改善することが骨粗鬆症化を予防改善し得るのでないかと想定し、Ultra-fine bubble(以下UFB;直径200nm以下のウイルス大の気泡)という新規技術に着目した。UFBは微小気泡を高速遠心することで作成されるが、それとは全く異なる以下の生理特性を有する。
[1] 表面がマイナス帯電することで反発し合い、かつ高い気泡内圧力により液体中に3か月以上安定して高濃度で溶解できる
[2] ウイルス大のサイズなので血管内皮間隙を通過し、標的細胞に到達できる
[3] 安価で大量に生成することができる
[4] 血液に酸素UFB(以下OUB)を混入すると血中酸素濃度を上昇させることができる
などの利点が挙げられ、現在drug deliveryの面から医療分野でも高い注目を集めている技術である。

 ステロイド性骨粗鬆症(GIO)は若年者でも発症し、比較的長期間の治療が必要となることが多いが、既存の骨吸収抑制剤の長期投与は骨代謝の過抑制などが懸念されるため、有効かつ長期投与可能な代替治療が望まれている。以上より我々はGIOマウスに対するOUB生食の投与効果を検討した。

方法
 マウス項部皮下に5㎎プレドニゾロンペレットを留置し、GIOマウスを作製した。Sham手術マウス・GIOマウスに術翌日より週3回、各回200ulの生食・OUB生食・窒素UFB(以下NUB)生食のいずれかを腹腔内投与し、8週間後にμCTによる大腿骨遠位の骨微細構造評価や組織学的評価・並びに骨代謝マーカー等による評価を行った。In vitroではOUBを飽和希釈後に段階希釈した培養液(0,25,50,75,100%)でマウス骨髄由来破骨細胞とマウス頭頂骨由来骨芽細胞を培養し、骨吸収能・ALP活性・細胞内シグナル伝達や遺伝子発現等の評価を行った。

結果
 ナノ粒子解析ではOUB生食中には通常の生食中には確認できない200nm以下の多数のナノ粒子が認められ、OUB生食を投与したマウス血清中ではこのナノ粒子数が増加していることが確認された。次いでGIOマウスの海綿骨・皮質骨の骨密度低下は、OUB生食投与により生食・NUB生食投与群と比較して有意に改善した。組織学的にはGIO誘導による大腿骨遠位部の骨組織における破骨細胞数の増加は、OUB生食投与により有意に抑制された。血液検査ではGIO誘導による骨吸収マーカー(CTX1)の増加はOUB生食投与により有意に抑制されたが、骨形成マーカー(オステオカルシン)には有意な影響は認められなかった。In vitroではOUBは濃度依存性に破骨細胞数・骨吸収領域および破骨細胞の分化・機能関連遺伝子発現・cFosやNFATc1のタンパク発現およびp38のリン酸化を抑制した。一方、骨芽細胞に関しては有意な影響は認められなかったことより、OUBによるGIOの改善は主に破骨細胞の分化および機能抑制によるものと考えられた。

著者コメント

 UFBに関する研究は様々な分野で行われているが、骨代謝への効果と、細胞内シグナル伝達や遺伝子発現への効果を検討した論文は我々が渉猟し得た限りでは本報告が初めてである。本技術は骨代謝以外にも低酸素が病態に関与する様々な疾患に応用が可能となる可能性があり、今後更なる発展が望まれる。(大阪大学医学部整形外科学・野口 貴明・蛯名 耕介)