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Sema4D–PlexinB1相互作用をアロステリック阻害する特殊環状ペプチドPB1m6

Allosteric Inhibition of a Semaphorin 4D Receptor Plexin B1 by a High-Affinity Macrocyclic Peptide
著者:Yukiko Matsunaga, Nasir K. Bashiruddin, Yu Kitago, Junichi Takagi, Hiroaki Suga
雑誌:Cell Chemical Biology 1341-1350, 2016
  • PlexinB1
  • 環状ペプチド
  • アロステリックインヒビター

松永 幸子

論文サマリー

 Semaphorinは7枚羽根から成るsemaドメイン(βプロペラ構造)とPSIドメイン、Igドメインを基本骨格とするファミリー分子であり、主要な受容体であるplexinファミリー分子群と相互作用する。Plexinもまたsemaphorinと同様に7枚羽根から成るsemaドメインとPSIドメインを持ち、両者はまるで頭突きをしているかのような “head-to-head” 様の複合体構造を取って細胞内シグナルを伝える(図1A)。Semaphorinは当初、発生期の神経軸索の伸長方向を決めるガイダンス因子として同定されたが、今日では免疫応答や骨代謝調節など多様な生理活性に寄与することが分かってきている。中でもsemaphorin 4D (Sema4D)とその選択的受容体PlexinB1のシグナル伝達は、骨芽細胞の分化を負に制御し、骨量や骨密度を低下させることが報告されている。そこで我々は、Sema4D–PlexinB1結合を阻害する化合物を探索すべく、菅裕明研究室(東大・理)が開発した特殊環状ペプチド探索技術、RaPID systemを用いた。

松永 幸子

 ライブラリースクリーニングから、PlexinB1へ強く結合する環状ペプチドPB1m6を取得した。生化学的および分子細胞生物学的な解析から、PB1m6はSema4D–PlexinB1結合を特異的に阻害するインヒビターであり、Sema4D刺激によって誘導される細胞形態変化(コラプス活性)を完全に抑制することが分かった(図2)。この阻害機構を明らかにするためにPB1m6/PlexinB1複合体のX線結晶構造解析を試みたところ、PB1m6はPlexinB1のsemaドメインの第5~6羽根間の凹みへ結合していた(図1B)。興味深いことに、このPB1m6結合部位はSema4D結合部位とは全く異なり、すなわち、PB1m6による阻害作用はSema4D相互作用面に対する直接的な阻害ではない(非競合阻害である)ことを意味する。さらに詳細なキネティクス解析を行ったところ、PB1m6はSema4D–PlexinB1結合の親和性を低下させるというアロステリックな阻害効果を示した。このようなアロステリックな機能調節機構がplexin分子群に普遍的なものであるとすると、本研究により見出されたPB1m6結合部位(アロステリックサイト)は、今後の抗plexin創薬設計のための新たなターゲット基盤となることと期待している。

松永 幸子

著者コメント

 ライブラリーから実に60%のfrequencyで濃縮されてきたPB1m6は、Plexin B1へ非常に高い親和性を示し、生物活性阻害能も強く、しかもアロステリック機構を持つペプチドでした。本研究成果は単なるセレンディピティとは言い難く、スクリーニングやタンパク質精製、合成法・アッセイ系樹立等、一つ一つの緻密な作業を、誰一人手を抜くことなく突き詰めた結果だと思います。菅研究室のバシルディン加藤ナセル博士との正味5年間の共同研究から厚い信頼関係を築くことができ、これが何よりもの成果だと思います。また本研究を遂行するにあたり構造生物学初心者の私を辛抱強く指導していただきました北郷先生、有森博士、海津博士、平井博士に厚く御礼申し上げます。(大阪大学蛋白質研究所・松永 幸子)