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カルシウム活性化カリウムチャネル新規バリアント体によるヒト軟骨細胞機能の修飾

A New Splice Variant of Large-conductance Ca2+-activated K+ (BK) Channel α Subunit Alters Human Chondrocyte Function.
著者:Suzuki Y, Ohya S, Yamamura H, Giles WR, Imaizumi Y.
雑誌:J Biol Chem. 2016 Nov 11;291(46):24247-24260.
  • 軟骨細胞
  • カリウムチャネル
  • カルシウムシグナリング

鈴木 良明・今泉 祐治

論文サマリー

 軟骨細胞において、イオンチャネルは浸透圧やpH、機械刺激など種々の因子により膜電位を変化させ、細胞内情報伝達を引き起こす。特に細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)上昇は分化や増殖、細胞死、代謝など多様な応答を引き起こす。変形性関節症(OA)患者の軟骨では、ヒスタミン(His)及びHis受容体発現量が上昇して炎症性メディエーターやタンパク質分解酵素の分泌が亢進することや、CaMK-ΙΙの活性上昇が病態増悪を起こすこと等が報告されている。すなわち、[Ca2+]i上昇および下流のCa2+シグナリングの異常が軟骨変性などOAの増悪につながると推測される。我々はこれまで、His刺激による持続的な[Ca2+]i上昇に対して大コンダクタンスCa2+活性化K+(BK)チャネル(ポアサブユニットであるBKαが4量体を形成し、[Ca2+]i上昇と膜脱分極によって活性化するK+チャネル)が促進的に関与することを明らかにした。しかし、[Ca2+]iの制御機構および下流シグナル経路については依然として不明な点が多い。

 本研究では、ヒト軟骨細胞株(OUMS-27)から発見したBKα exon2欠損型スプライスバリアント体(BKαΔe2、図1A)の特性と軟骨機能への寄与の解明を目的とした。BKαΔe2の蛍光タンパク質標識体を作製し、パッチクランプ法と蛍光イメージング法により、BKチャネルの膜電流と細胞内局在を詳細に解析した。その結果、[1]BKαΔe2 mRNAは健常者及びOA患者の関節軟骨に発現すること、[2]BKαΔe2は単独では膜移行せずチャネルとして機能しないこと、[3]BKαΔe2と野生型(BKαWT)のヘテロ4量体の膜移行効率はBKαWT 4量体よりも低いこと、[4]ヘテロ4量体の単一チャネル電流はBKαWT 4量体よりも小さいこと(図1B, C)、[5]BKαのS0-S1 linker内のα-helixが膜移行に必須であること、[6]BKαΔe2のノックダウンはOUMS-27のHis誘発性COX-2発現を上昇させること(図2)、などを明らかにした。

 以上より、BKαΔe2はOUMS-27におけるBKチャネルの機能的発現量を抑制し、 [Ca2+]i上昇誘発性の生理応答を負に制御することが示唆された(図2)。今後、軟骨細胞の[Ca2+]i制御に関連するチャネルと下流エフェクターによるシグナル伝達経路を詳細に解析し、Ca2+動態と軟骨細胞機能及びOA病態形成との関係を明らかにする必要がある。

鈴木 良明・今泉 祐治

鈴木 良明・今泉 祐治

著者コメント

 私たちは軟骨細胞機能および変形性関節症の病態形成に対する、Ca2+関連チャネルの役割について研究しております。本論文では、パッチクランプ法や蛍光イメージング法を用いた1分子~細胞レベルのイオンチャネル解析法を駆使して、研究途上で偶然見つかったBKαΔe2の性質とその軟骨細胞機能への役割を解明しました。さらに、今回明らかになったストイキメトリー(4量体内のBKαΔe2の数)依存的な単一チャネル電流抑制は、新しいタイプのチャネル機能制御機構です。今後は、細胞内Ca2+動態の制御が変形性関節症の新規治療法に結びつくか研究していきます。また、臨床研究者との共同研究も希望しているので、我々の研究に興味のある先生方は是非ご連絡下さい。(名古屋市立大学 大学院薬学研究科 細胞分子薬効解析学分野・鈴木 良明・今泉 祐治)