日本骨代謝学会

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Smad4は破骨細胞の分化を抑制し骨量の維持に必須である

Smad4 is required to inhibit osteoclastogenesis and maintain bone mass.
著者:Morita M, Yoshida S, Iwasaki R, Yasui T, Sato Y, Kobayashi T, Watanabe R, Oike T, Miyamoto K, Takami M, Ozato K, Deng CX, Aburatani H, Tanaka S, Yoshimura A, Toyama Y, Matsumoto M, Nakamura M, Kawana H, Nakagawa T, Miyamoto T.
雑誌:Sci Rep. 2016 Oct 12;6:35221.
  • 破骨細胞
  • TGF-β
  • RANKL

森田 麻友

論文サマリー

 骨の恒常性は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成のバランスにより維持されており、骨組織に含まれるBMP2やTGFβなどもその制御因子である。これらの因子は、シグナル促進にそれぞれ特異型のSmad2/3もしくは Smad1/5/8と、共有型のSmad4を介している。骨芽細胞に発現するSmad4は骨の恒常性維持に必須であるという報告がこれまでされているが、破骨細胞における役割については報告がない。そこで、破骨細胞特異的にSmad4を欠失させたマウス(Smad4 cKO, Ctskcre/+Smad4f/f)を用い、破骨細胞におけるSmad4の役割について解析を行った。

Smad4 cKOマウスでは骨密度の低下が見られたことから、破骨細胞におけるSmad4は、生理的な環境下では破骨細胞を抑制していると考えられた。in vitroにおいて、野生型マウスの骨髄細胞を用いた破骨細胞培養系に、Smad4の上流の因子であるBMP2およびTGFβ1-3を添加したところ、BMP2とTGFβ2では破骨細胞分化の促進、TGFβ1と3では有意な抑制を認めた。そこで、破骨細胞分化の抑制はTGFβ1および3が主に作用していると考え、骨組織に豊富に含まれるTGFβ1に着目した。In vitroにおけるTGFβ1添加実験では、real time PCRの結果、破骨細胞の分化マーカーであるCtskNFATc1のmRNAの発現低下と、抑制因子であるBcl6Irf8の発現上昇がみられ、Smad4 cKOマウス由来の骨髄細胞ではその作用がキャンセルされることが分かった。そこで、Bcl6とIrf8の上流であり、これらの因子を抑制する転写因子であるPrdm1に着目した。ChIP-seq法を用いた結果では、TGFβ1を添加させた際、Smad2/3のPrdm1転写因子の転写開始点付近への結合が増加することが分かった。そこで、破骨細胞特異的にSmad4とPrdm1を欠失させたマウス(Ctskcre/+Smad4f/fPrdm1ff/)の骨密度を解析したところ、Smad4による骨密度の低下がキャンセルされることが分かった。

 最後に、TGFβによる破骨細胞抑制作用の治療への応用の可能性について考えた。炎症性の骨破壊など破骨細胞が優位な状態にある環境下で、従来の治療方法である骨吸収抑制剤は、破骨細胞を抑制することで骨芽細胞まで抑制し、正常な骨の代謝まで影響を与えてしまうという問題点があった。今回の実験結果より、TGFβ1と3は破骨細胞の抑制を行うことが分かったが、latentTGFβ1もしくは3を骨吸収部位に投与することにより、破骨細胞の酸による活性化によりlatentTGFβがactiveに変換されれば、正常な骨代謝は維持されたまま炎症のある部分のみ破骨細胞を抑制させることができるのではないかと考えた。そこで、マウスの頭部にLPSを投与したLPS誘導性骨破壊モデルを作製し、LPSと同時にlatentTGFβFcタンパク質を投与したところ、control群であるCD4Fcタンパク質群と比べ、マウスcalvariaの骨破壊像の抑制がみられた。

 今回の解析から、TGFβ/Smad4を介したシグナルは、Smad4がPrdm1の発現を低下させ、Bcl6とIrf8の発現が上昇することにより破骨細胞の分化を抑制することで、骨量減少を阻害するために必須であると考えられ、骨吸収過剰状態においては今後の新たな治療標的である可能性が示唆された。

森田 麻友

著者コメント

 私は、慶應義塾大学歯科・口腔外科学教室に入局し、2年間の初期研修を終えた後、静岡清水病院で2年間臨床に携わってきました。その当時、整形外科学教室の宮本健史先生のラボでお世話になっていた医局の先輩の研究を引き継ぐかたちで、その後大学院に入学、私の研究生活が始まることとなりました。
 TGFβの破骨細胞への作用の多くは促進派でした。我々の実験結果では抑制的に働くことがみられていたのですが、学会発表や論文投稿をする上で、促進派があまりに多く、少数意見である抑制派として主張し、それを実証していくことには大きな戸惑いや苦労がありました。それらを乗り越え、研究成果が論文としてひとつのかたちになった時は、今まで臨床では感じたことのなかった達成感がありました。今年大学院は卒業することになり、ひとつの区切りとなりますが、ここで得た経験や知識をもとに、これからも研究に携わっていきたいと思います。
 本研究にあたり、ご指導いただきました多くの先生方に深く感謝申し上げます。(慶応義塾大学歯科・口腔外科・森田 麻友)