日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 藤原 誠

ヒト線維芽細胞において4つの転写因子の導入により発現誘導し得たスクレロスチンは、副甲状腺ホルモン、低酸素およびプロスタグランジンE2による制御を受ける

Successful induction of sclerostin in human-derived fibroblasts by 4 transcription factors and its regulation by parathyroid hormone, hypoxia, and prostaglandin E2.
著者:Makoto Fujiwara, Takuo Kubota, Wei Wang, Yasuhisa Ohata, Kohji Miura, Taichi Kitaoka, Daisuke Okuzaki, Noriyuki Namba, Toshimi Michigami, Yasuji Kitabatake, Keiichi Ozono
雑誌:Bone. 2016 Feb;85:91-98. doi: 10.1016/j.bone.2016.01.024
  • SOST
  • スクレロスチン
  • 線維芽細胞

藤原 誠

論文サマリー

 スクレロスチンはSOSTがコードする骨細胞に特異的な分泌性蛋白質であり、Wntシグナルを阻害することで骨形成を抑制する。SOSTの発現調節機構には未解明な点が多いが、その解析に骨細胞を用いるには困難が多い。そこで我々は入手容易な線維芽細胞でのスクレロスチン発現の獲得を目指した。

 ヒト骨肉腫由来株SaOS-2の長期分化培養でSOSTの発現が上昇することを確認し、その分化・維持培養間で発現する遺伝子をマイクロアレイにより比較した。分化培養で2倍以上の発現上昇をみた転写因子から、IPA upstream regulator analysis、SOST promoterおよびenhancerへの結合能予測解析、および骨分化に関与する既報に基づき候補因子を選択した。候補因子群をヒト線維芽細胞にレトロウイルスを用いて強制発現させ、1週目に最も効果的にSOST発現を誘導する組み合わせをqPCRにより評価した。また培養液中のスクレロスチン濃度をELISAで測定した。

 結果、20個の候補因子が選択され、このうち7因子の導入で線維芽細胞でのSOST発現を得た。抑制的と考えられる因子を漸次的に除外し、最終的に著明にSOST発現を誘導し得る4因子ATF3, KLF4, PAX4, SP7を同定した(対照と比べ1週で199倍、4週で1439倍)。免疫染色にて4因子の骨細胞における発現を確認した。また培養液中にスクレロスチンを検出し(4週で平均21.2 pmol/L)、培養液によるWNT10bシグナルの抑制効果も確認した。

藤原 誠

 次にこの誘導SOSTおよびスクレロスチンの発現に対する制御因子について検討した。PTH添加により誘導SOSTは4週で非添加の62.3 %に有意に発現が抑制され、誘導スクレロスチン濃度も有意に減少した。また低酸素培養下での誘導SOST発現は、正常酸素培養下と比し1週で1.6倍の有意な増加を認めた。一方でPGE2を添加し24時間培養すると、誘導SOST発現は非添加と比し1週で16倍の有意な上昇がみられたが、インドメタシン添加では変化はみられなかった。

藤原 誠

 以上より、我々はヒト線維芽細胞におけるSOST及びスクレロスチン発現誘導法を確立した。また、その発現はPTH、低酸素やPGE2により制御を受けることを示した。この手法がSOST制御機構の解明や創薬につながることを期待する。

著者コメント

 この研究は、大学院入学時に大薗教授から「骨細胞を作る」というテーマを与えられて始まりました。既存の骨芽細胞の分化培養などを試みるなど2年間ほど試行錯誤しましたが、その後幸いにもdirect reprogrammingの手法を参考として線維芽細胞にSOSTおよびスクレロスチン発現を誘導し得て、何とか成果としてまとめることが出来ました。今後は疾患特異的線維芽細胞での誘導SOST発現の解析などを目指したいと考えています。大薗教授をはじめ小児科内のグループや施設を超えて様々な御助言・ご協力を頂いた方々には、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。(大阪大学大学院 医学系研究科 小児科学・藤原 誠)