日本骨代謝学会

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脂肪酸伸長酵素Elovl6は、マウスの成長板発達において軟骨細胞の増殖、分化に重要な役割を担っている

Crucial Role of Elovl6 in Chondrocyte Growth and Differentiation during Growth Plate Development in Mice.
著者:Kikuchi M, Shimada M, Matsuzaka T, Ishii K, Nakagawa Y, Takayanagi M, Yamada N, Shimano H.
雑誌:PLoS One. 2016 Jul 28;11(7):e0159375.
  • Elovl6
  • 脂肪酸組成
  • 軟骨細胞

嶋田 昌子・菊地 愛美

論文サマリー

 Elongation of long chain fatty acids family member 6(Elovl6)は炭素数12〜16の飽和・一価不飽和脂肪酸の伸長を司る脂肪酸伸長酵素である。Elovl6はsterol regulatory element-binding protein (SREBP) 1の主な標的遺伝子で、Elovl6 ノックアウト(KO)マウスの解析により、生体内でインスリン感受性や動脈硬化巣の形成を調節していること、臨床研究でも生活習慣病関連遺伝子であることが解ってきた。しかし、一方で、Elovl6 KO マウスは小柄な体格を示し、出生率も低く、胎生期の発達に異常があることが当初より指摘されていた。本研究は、Elovl6の骨・成長板発達における役割とその背景となる分子機序について検討した。

 Elovl6 は骨・軟骨細胞でも発現しており、Elovl6 KOおよびノックダウン(KD) 軟骨細胞では、脂肪酸組成が変化してパルミチン酸(C16:0)が有意に増加し、オレイン酸(C18:1, n-9)が減少していた。Elovl6 KO新生児は、対照群と比較して小柄な骨格を示し(図1)、脛骨成長板は、増殖層が薄く、肥大層が厚かった。増殖層におけるBrdU陽性細胞率は有意に減少しており、Elovl6 欠損で軟骨細胞増殖が低下することが示唆された。アポトーシスには両群間で差はみられなかった。

嶋田 昌子・菊地 愛美
図1.Control(左)とElovl6-/-(右)マウス

 In situ hybridization解析において、Elovl6 KO新生児では肥大軟骨細胞のマーカーであるCollagen10α1 の発現が増加し、骨芽細胞のマーカーであるCollagen1α1 の発現が減少していた(図2)。

嶋田 昌子・菊地 愛美
図2.In situ hybridization 解析

 次に、初代軟骨細胞のマイクロアレイ解析を行なったところ、Elovl6 KO軟骨細胞では、Collagen10α1の発現がもっとも顕著に上昇し、予想されるようにElovl6が最も低下しており、マウスの成長板の表現型と合致した。軟骨細胞分化マーカーの発現量をqPCRにより検討したところ、Elovl6 KOおよびKD細胞では対照群と比較してCollage10α1 および、その関連転写因子Foxa2/a3、Mef2c の有意な発現上昇が認められた。さらに、Foxa2タンパク質の核内の局在と、Mef2c の発現を制御するhistone deacetylases (HDAC) 4/5/7タンパク質の核外における局在の増加を認めた。したがって、Elovl6 欠損に伴うこうした一連の変化により、Collagen10α1 の発現が増加し、成長板の軟骨肥大層が肥厚していた分子機序が考えられた。

 Elovl6 欠損による脂肪酸組成の変化は、少なくとも生直後までの成長板の発達に関与することが示唆された。(相模女子大学大学院 栄養科学研究科・嶋田 昌子)

著者コメント

 多価不飽和脂肪酸とは対照的に、飽和・一価不飽和脂肪酸の骨や軟骨における役割は未解明な点が多く残されています。本研究では、脂肪酸伸長酵素Elovl6のノックアウトマウス解析により、飽和・一価不飽和脂肪酸が成長板発達に関与することを明らかにしました。本研究は、私が学部卒業研究生のときにスタートしました。骨に関する知識はゼロ、マウスを扱うのも初めてという状況の中、周囲の方々に支えられ、なんとか修士卒業時に論文としてまとめることができました。ご指導いただきました相模女子大学 嶋田昌子教授、筑波大学 島野仁教授をはじめ、本研究にご尽力いただいた筑波大学医学医療系内分泌代謝・糖尿病内科研究室の皆様に心より感謝申し上げます。(筑波大学大学院 人間総合科学研究科 フロンティア医科学専攻・菊地 愛美)