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関節リウマチ患者のCXCR4発現メモリーCD4+T細胞がHLA-DRB1多型及び疾患活動性と関連する

Immunophenotyping of rheumatoid arthritis reveals a linkage between HLA-DRB1 genotype, CXCR4 expression on memory CD4(+) T cells, and disease activity.
著者:Nagafuchi Y, Shoda H, Sumitomo S, Nakachi S, Kato R, Tsuchida Y, Tsuchiya H, Sakurai K, Hanata N, Tateishi S, Kanda H, Ishigaki K, Okada Y, Suzuki A, Kochi Y, Fujio K, Yamamoto K.
雑誌:Sci Rep. 2016 Jul 7;6:29338.
  • 関節リウマチ
  • 免疫細胞タイピング
  • HLA

永渕 泰雄

論文サマリー

 HLA-DRB1が関節リウマチ(RA)の最大の遺伝因子であることが知られている。RAの感受性HLA-DRB1遺伝子座70-74番共通アミノ酸配列はshared epitope(SE)と呼ばれ、抗CCP抗体陽性で関節破壊が進行しやすい予後不良RAと強く関連する。SEはシトルリン化自己抗原エピトープのCD4+T細胞への提示によって、自己免疫病態に関与するものと考えられている。関節リウマチ患者の関節局所には、T細胞のクローン増殖、シトルリン化抗原に対する自己抗体産生B細胞が認められ、CD4+T細胞を中心とした持続的獲得免疫反応が関節局所で炎症を惹起しているものと考えられる。CD4+T細胞の関節への遊走、保持にはケモカインレセプターCXCR4が中心的な役割を果たすことが報告されている。

 そこで我々はRA患者末梢血単核球の免疫細胞タイピング解析によって、HLA-DRB1遺伝子型や臨床指標と関連する細胞集団の同定を心試みた。91名のRA患者のHLA-DRB1タイピングを行い、健常人コントロール110名とともに免疫細胞タイピングを行った。フローサイトメトリーによって末梢血単核球中のCD4+T細胞、B細胞、NK細胞、単球、樹状細胞の計24サブセットの分類を行った。また、CD4+T細胞サブセットのCXCR4発現解析を行った(n=35)。免疫細胞タイピングを行った24サブセットのうちメモリーCD4+T細胞比率が抗CCP抗体力価と弱く相関した。またCXCR4+メモリーCD4+T細胞比率が疾患活動性と相関した。さらにCXCR4+メモリーCD4+T細胞比率はSE陽性RA群で上昇していた。

 続いてCD4+T細胞上のCXCR4とHLA-DRの関係を末梢血単核球の培養実験によって検討した。RA末梢血で炎症性サイトカインIL-21の増加を認め、In vitroで末梢血単核球をIL-21刺激したところメモリーCD4+T細胞のCXCR4発現が上昇した。抗HLA-DR抗体によってこのCXCR4発現上昇は用量依存的に抑制され、抗原提示細胞のHLA-DRがメモリーCD4+T細胞のCXCR4発現に関わることが示唆された。B細胞、単球及び樹状細胞のHLA-DR発現量を検討すると、SE陽性RAのB細胞HLA-DR発現量が増加しており、これがCXCR4+メモリーCD4+T細胞比率と相関した。また、RNA-seqによってCXCR4+メモリーCD4+細胞の発現プロファイルをCXCR4陰性細胞と比較するとMYCやNFkBの高発現に特徴づけられる特徴的な発現プロファイルを示し、パスウェイ解析によって発現変化の上流因子としてTCRが抽出された。臨床的には、治療開始前のCXCR4高発現はCTLA4-Igのより高い有効性と関連した。

 SE陽性患者のメモリーCD4+T細胞はCXCR4発現上昇によって、関節局所への遊走能が上昇し、持続的な炎症に関わる可能性がある。特にB細胞上のHLA-DR発現量上昇がCD4+T細胞のCXCR4発現上昇と関わる可能性が示唆された。CXCR4+メモリーCD4+T細胞はRAにおけるHLA-DRB1遺伝子型と疾患活動性の結びつきに関与し、治療反応性を予測するバイオマーカーとしても有用である可能性が考えられた。

永渕 泰雄
図:HLA-DR発現上昇B細胞とCXCR4発現メモリーCD4+T細胞がHLA-DRB1多型(shared epitope)及び関節リウマチの疾患活動性と関連した

著者コメント

 本論文の解析は「末梢血の免疫細胞の増減を検討することで関節リウマチ患者ごとの臨床像の差が免疫学的に理解できるのではないか」、という仮説に基づいて開始しました。ところが中間解析で標準的サブセット分類だけでは臨床像と強く関連するサブセットが同定できず、方向転換を余儀無くされました。紆余曲折を経てCD4+T細胞の表面マーカーとしてCXCR4に着目した解析を進め、この報告をまとめることが出来ました。今後も臨床現場に根ざした研究を行っていければと思っています。最後にこの場を借りて、本研究に多大なご指導、ご協力を賜りました山本教授、藤尾先生を始めとする多くの共著者の皆様方に改めて御礼を申し上げます。(東京大学医学部アレルギー・リウマチ内科・永渕 泰雄)