日本骨代謝学会

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転写因子Mohawkは椎間板線維輪外輪の維持・再生に重要である

Mohawk promotes the maintenance and regeneration of the outer annulus fibrosus of intervertebral discs.
著者:Nakamichi et al.
雑誌:Nat Commun 2016 Aug 16;7:12503. doi: 10.1038/ncomms12503.
  • 椎間板線維輪
  • 転写因子
  • 間葉系幹細胞

論文サマリー

 脊椎椎間板ヘルニアはありふれた疾患の一つだが、この疾患が引き起こす腰痛、下肢痛は患者の日常生活の質を大きく低下させる。この痛みの主たる原因は椎間板の線維輪が加齢、もしくは過剰なメカニカルストレスにより破綻し、髄核成分がリークすることでその背部にある脊髄神経が圧迫されることにある。現在の治療法は脊髄神経を圧迫している椎間板を除去することが一般的であるが、この治療法では椎間板変性、もしくは変形性脊椎症への進行を予防することはできない。そのため破綻した線維輪構造を修復する治療法が望まれるがこれは未だ実現していない。その原因として、線維輪の発生や再生メカニズムは不明な点が多いことが挙げられ、その基礎研究の重要性が伺える。

 本研究では、転写因子Mohawk (Mkx)がマウスの椎間板の繊維輪外輪に発生期から発現し、組織形成の成熟後もその発現が持続していること、さらにヒトの椎間板においても線維輪外輪に強く発現することを見出し、線維輪におけるMkxの機能を解析してきた。結果、Mkx-/-マウスを用いた解析では、Mkx-/-マウスの線維輪外輪細胞は腱・靭帯関連遺伝子の発現が複数低下しており、また椎間板繊維輪外輪のコラーゲン細線維径が小さいことが確認された。さらに野生型と比べてMkx-/-マウスは加齢に伴い徐々に椎間板変性が進行することも分かり、力学的に脆弱な線維輪組織が形成されていることが確認された(図1)。

中道 亮
図1:左図がコラーゲン細線維の電子顕微鏡像、右図が腰椎椎間板の組織染色像。Mkx-/-マウスでは線維輪のコラーゲン細線維の径が小さく、また加齢に伴い椎間板の変性が生じる

 これらの結果からMkxは線維輪外輪の細胞の分化および組織形成に重要な働きを有している可能性が示唆され、マウス胚由来の間葉系幹細胞であるC3H10T1/2を用いて検証した。結果、C3H10T1/2にMkxを導入した細胞は形態が紡錘形に変化し、種々の腱・靭帯関連遺伝子の発現の上昇が認められた。またこの細胞は軟骨や骨など、他の間葉系の細胞への分化能を失っており、これはMkxが間葉系幹細胞を線維輪外輪細胞へと分化を促進させた結果であると考えられた。さらにこの細胞はマウス椎間板変性モデルの椎間板線維輪内に移植すると、そこに豊富なⅠ型コラーゲン線維を形成し、健常組織に近い物性をもつことが分かった(図2)。

中道 亮
図2:Mkxは間葉系幹細胞を、Ⅰ型コラーゲン線維を生成する細胞へと変化させる。

中道 亮
図3:右がMkxを導入したC3H10T1/2を椎間板に移植してできた組織。左が対照群。*が新生組織を示す。Mkxを導入することで、豊富な組織を生成するようになる。

 以上の結果から、Mkxは椎間板線維輪外輪の形成に重要な因子であることが分かり、この因子と間葉系幹細胞を用いる方法が線維輪外輪の組織再生医療の可能性を示すものであると結論づけた。

著者コメント

 変性した椎間板は再生させることができないため、薬物療法・手術療法いずれも症状に対する対症療法を行う事が医療の現状です。この現状を打破すべく多くの先人方が研究に取り組まれています。私もその一員として参加させていただき、約4年の歳月をかけてこの論文を出させて頂きました。
 本研究は東京医科歯科大学のシステム発生・再生医学研究分野の浅原弘嗣先生に統括していただき、東海大学医学部の酒井大輔先生、University of California, San Diegoの舛田浩一先生、The Scripps Research InstituteのMartin K. Lotz先生の惜しみないご指導のもと完成に至りました。この場をお借りして深謝申し上げます。(岡山大学大学院医歯薬総合研究科 整形外科・中道 亮)