Lysyl oxidase(LOX)はRANKL非依存性破骨細胞分化を誘導しない
著者: | Tsukasaki M, Hamada K, Okamoto K, Nagashima K, Terashima A, Komatsu N, Win S, Okamura T, Nitta T, Yasuda H, Penninger JM, Takayanagi H. |
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雑誌: | J Bone Miner Res. 2016 Sep 8. doi: 10.1002/jbmr.2990. |
- 破骨細胞
- RANKL
- LOX
左から濱田孝樹君、高柳広教授、著者
論文サマリー
RANKLは破骨細胞分化に必須の分子であり、骨代謝を司る中心的な役割を担っている。RANKL及び受容体RANKのノックアウトマウスは、破骨細胞の完全な欠失を伴う重篤な大理石骨病を呈する。また、RANKL欠損マウスに関節炎を誘導しても破骨細胞は出現せず骨破壊が起こらないことが報告されており、生体内における破骨細胞分化は、生理的及び病理的環境下のいずれにおいてもRANKL/RANK経路に依存することが示されている(Nakashima et.al. Trends Endocrinol Metab. 2012)。
“RANKL非依存性破骨細胞分化経路”の存在は、RANKLと同じTNFスーパーファミリーに属し、多くの下流シグナルを共有するTNFαを中心に、主にin vitroの実験系で議論がなされてきた。しかしTNFα単独で破骨細胞分化を誘導できるという報告がある一方、単独では誘導できないという報告もあり、統一した見解は得られていない。TNFαは培養系に混在する間質細胞が発現する微量なRANKL依存的に、破骨細胞分化を強力に促進するRANKL協調因子であることが提唱されており(Lam et.al. J Clin Invest. 2000)、培養条件によって混在するRANKLの量が異なるために、これまで相反する報告がなされてきた可能性がある。従って、“RANKL非依存性”は、培養系に混在するRANKLの影響を完全に排除した、RANKL/RANK欠損条件下でのみ検証可能であり、これまでにRANKL非依存性破骨細胞分化の生体レベルでの証拠は不十分である。
昨年、乳がんの骨転移をコラーゲン架橋酵素であるリシルオキシダーゼ(LOX)が促進することが報告され、その機序として、LOXがRANKL 非依存的に、更には RANKL よりも強力に破骨細胞分化を誘導することが提唱された(Cox et.al. Nature 2015)。しかし、破骨細胞分化の実験にはヒト末梢血細胞を象牙切片上で長期培養するという特殊な系のみが使用されており、培養系へのRANKL混入の可能性も十分検討されておらず、RANKL非依存性の証明は不十分であった。
そこで本研究において我々は、LOXの破骨細胞分化への影響を、RANKL/RANK欠損細胞を用いて詳細に検討した。まず、元論文と同じ条件を用いてヒト末梢血細胞をLOX存在下で長期培養したところ、破骨細胞は全く観察されなかった。マウス骨髄細胞を用いた従来の破骨細胞分化系においても、LOX単独では破骨細胞を誘導できなかった。更に、RANKL欠損マウスにRANKLを投与した場合は、骨表面への破骨細胞の出現や、破骨細胞と同じくRANKL依存的に分化する腸管上皮M細胞の誘導が観察されたが、LOXの投与では全く観察されず、生体内においてLOXはRANKLの機能を代替しないことが示された。ただ、LOXとRANKLを同時に添加してマウス骨髄細胞の長期培養をおこなったところ、LOXはRANKL依存的な破骨細胞分化を促進することが明らかとなった。その相乗効果はRANKL欠損細胞を用いた場合には打ち消されたことから、LOXは内在性RANKLの発現を介して破骨細胞分化を促進することが示唆された(図1A)。実際にLOXは活性酸素(ROS)の産生を介して骨髄間質細胞や骨芽細胞のRANKL発現を誘導することが明らかになり(図1B)、長期培養などの特殊な条件下では、培養系に混在する間質細胞上のRANKL発現誘導を介し、LOXはRANKLによる破骨細胞分化を正に制御することが示唆された(図1C)。
LOXは骨髄間質細胞上のRANKL発現誘導を介して破骨細胞分化を促進する
今回の我々の報告の直後に、LOXが大腸がんの骨転移を促進することが報告され、その機序として、LOX単独では破骨細胞分化を誘導できないものの、RANKL依存的な破骨細胞分化を促進することが別のグループからも報告された(Reynaud et.al. Cancer Res. 2016)。我々の研究を含めた今回の一連の報告は、LOXはRANKL非依存性破骨細胞分化を誘導できないが、LOXとRANKLを同時に阻害することで、がんの骨転移をより効果的に制御できる可能性を示唆しており、今後更なる展開が期待される。
著者コメント
NatureにLOXの論文が出てすぐに高柳研のジャーナルクラブで紹介され、一同非常に驚き、すぐに再現をとってみようという事になりました。当時博士課程2年でちょうど毎日破骨細胞を作っていた私が、修士課程に入学してきたばかりの濱田君に破骨細胞の実験を教えながら、LOXの効果も検討してみるということで始めたプロジェクトだったのですが、何度LOXを振りかけても全く破骨細胞ができず、どうしたものかと悩みました。色々と試してみて、RANKLとの相乗効果などを見いだす事ができ、なんとか1年間で論文として発表する事が出来たのは、濱田君の頑張りと、共著者の方々のご協力、そして何より高柳教授の破骨細胞とRANKLへの愛あふれるご指導のお陰だと心より感謝しております。(東京大学大学院医学系研究科 免疫学・塚崎 雅之)