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培養軟骨細胞における低出力性パルス超音波(LIPUS)処置は関節軟骨の再生に重要なCCN2の産生を促進する

Low-intensity pulsed ultrasound (LIPUS) treatment of cultured chondrocytes stimulates production of CCN family protein 2 (CCN2), a protein involved in the regeneration of articular cartilage: Mechanism underlying this stimulation.
著者:Nishida T, Kubota S, Aoyama E, Yamanaka N, Lyons KM, Takigawa M.
雑誌:Osteoarthritis Cartilage. 2016 Oct 8. pii: S1063-4584(16)30311-9.
  • 低出力パルス超音波(LIPUS)
  • CCN2
  • 破骨細胞

西田 崇

論文サマリー

 変形性膝関節症 (Osteoarthritis: OA)は関節軟骨の変性によって関節機能が障害される疾患で、未だ根本的な治療法はない。特に軽度OAは症状の緩和などの対処療法が中心であるため、OAの病状が進行することも考えられる。それ故、軽度なOAから関節軟骨の修復を目指す新たな治療法の確立は急務である。

 我々はこれまでCCN family protein 2/結合組織成長因子 (CCN2/CTGF)が軟骨細胞の増殖・分化の両面を促進すること、実験的OAモデルの関節軟骨を修復させることを報告し、CCN2がOAに対して有効な分子の一つであると考えてきた。しかし、関節軟骨におけるCCN2の発現は低く、CCN2の発現をいかに上昇させるかが課題であった。近年、低出力パルス超音波(Low-intensity pulsed ultrasound: LIPUS)がメタ解析によってOAに有効であると報告され、我々はLIPUSの軟骨細胞における作用にCCN2の産生が関わっていると仮説を立てた。本論文では、この仮説を検証すると共にそのメカニズムについても解析した。

 ヒト軟骨細胞様細胞株HCS-2/8、ラット初代骨端軟骨及び関節軟骨細胞を低出力パルス超音波治療器(ST-SONIC: 伊藤超短波社製; 3.0MHz, 30-60mW/cm2)で20分間刺激した。刺激終了後30分でtotal RNAを、5時間でタンパク質を採取し、定量RT-PCR及びWestern blot 法で解析した結果、 CCN2の遺伝子発現及びタンパク質産生の亢進が認められ、II型コラーゲンやアグリカンの遺伝子発現量も増加した。次に、LIPUSによる細胞内シグナル伝達経路を調べると、LIPUS刺激直後にHCS-2/8細胞の細胞内にCa2+の流入が見られ、その後、ERK1/2及びp38 MAPKのリン酸化が亢進した。また、興味深いことにCcn2欠損軟骨細胞ではLIPUSによる効果が認められず、Ca2+ channelの一つであるTrpv4 の発現量が減少していた。これはCCN2がTRPV4の発現を制御しているためと考え、siRNAでCCN2をノックダウンさせたHCS-2/8細胞を用いてTRPV4 mRNAの安定性を調べるところ、予想通りにCCN2のノックダウンによってTRPV4の安定性は減少していた。今回の結果から、LIPUS刺激によるTRPV4を介したCa2+の流入がMAPKの活性化を経てCCN2を産生し、産生されたCCN2はTRPV4の安定化に寄与することで、positive feed back loopが形成されると考えられた(図)。

西田 崇

 本論文の知見がOAに対するLIPUSの有用性の証明の一助になることを期待している。

著者コメント

 本研究は伊藤超短波株式会社との共同研究でスタートしました。研究当初は超音波が本当に培養細胞で作用するのか半信半疑で、超音波照射後の軟骨細胞からどのタイミングで試料を回収するべきかその条件検討に苦労しました。色々な条件を検討した結果、本論文に示す条件下でII型コラーゲン、アグリカン、CCN2の遺伝子発現及びタンパク質産生の亢進を示すことができました。また、論文の査読時には統計処理等で大変苦労しましたが、本論文の結果は低出力パルス超音波が軟骨修復に効果があることを分子レベルで示したものではないかと思っています。LIPUSはすでに骨折治療で臨床応用されていますので、将来的にはLIPUSのOA治療への利用拡大の一助になれば幸いです。最後に本研究の機会を与えて下さり、また、ご支援頂きました滝川正春先生並びに久保田聡先生をはじめ、多くの先生方に深く感謝致します。(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科口腔生化・分子歯科学分野・西田 崇)