
可溶型Siglec-9は、M1マクロファージ活性抑制を介してマウスコラーゲン誘発性関節炎を抑制する
著者: | Matsumoto T, Takahashi N, Kojima T, Yoshioka Y, Ishikawa J, Furukawa K, Ono K, Sawada M, Ishiguro N, Yamamoto A. |
---|---|
雑誌: | Arthritis Res Ther. 2016 Jun 7;18(1):133. |
- 関節リウマチ
- 関節軟骨
- Siglec-9
論文サマリー
Siglec(Sialic acid-binding immunoglobulin-type lectins)-9は免疫細胞表面に発現する抑制系受容体であるが、近年の研究により可溶型Siglec9と呼ばれる細胞外ドメインが抗炎症作用を持つことが判明した。本研究では関節リウマチのモデルとしてマウスコラーゲン誘導関節炎(CIA)に対する可溶型Siglec-9の抑制効果、および炎症性マクロファージ(M1マクロファージ)活性に対する抑制効果を検証した。
DB1JマウスによるCIAモデルに可溶型Siglec-9を経静脈投与し、関節炎の発症率、関節炎スコア、血清TNFα濃度を評価し、膝関節、足関節の組織切片の炎症スコアを評価した。可溶型Siglec-9の体内動態を可視化するためin vivo imagingを行った。またマウスマクロファージ(RAW264.7細胞、腹腔マクロファージ)を可溶型Siglec-9と共培養後、炎症誘発物質(INFγ)を投与し、M1マーカー(TNFα、IL-6、iNOS)、M2マーカー(CD206、Arginaze1、IL-10)の発現を評価した。
可溶型Siglec-9投与群(S群)ではコントロールCIA群(C群)と比較して、関節炎発症率、関節炎スコア、組織スコア、血清TNFα濃度が有意に低かった。組織評価ではC群は高度な炎症性細胞浸潤、骨軟骨破壊像を認めたが、S群ではわずかな炎症細胞の浸潤を認めるのみであった。in vivo imagingでは可溶型Siglec-9が関節炎発症部位に強く集積していることが確認された。細胞実験では炎症誘発したマクロファージにおけるM1マーカーの遺伝子、蛋白発現が共に可溶型Siglec-9によって濃度依存的に抑制され、細胞内シグナル経路の一つであるNF-kBのリン酸化抑制がみられた。またこれらの抑制効果は共培養前に細胞表面のシアル酸を除去するとキャンセルされた。
本研究により可溶型Siglec-9はCIAの発症率、関節炎スコア、組織スコアを抑制することが判明した。その作用機序として、可溶型Siglec-9はマクロファージ細胞表面のシアル酸を介して受容体と結合しNFkB経路を阻害することにより、M1活性を抑制する可能性が示唆された。関節リウマチの治療は生物学的製剤(抗TNFα阻害剤、抗IL-6阻害剤など)の登場により画期的な飛躍を遂げたが、それでもなお多剤無効例が存在する。これらに対し可溶型Siglec-9は新しい作用機序によるリウマチ治療薬としての臨床応用が期待される。しかし、その受容体やin vivo における作用機序、安全性にはまだ不明な点が残されており、さらなる検証が必要である。
著者コメント
本研究は本学咀嚼障害制御学における先行研究により、歯髄細胞の培養上清液に抗炎症作用があることが判明し、その有効成分として可溶型Siglec-9が特定されたことから始まりました。関節リウマチ以外の炎症性疾患モデルに対する研究や、既存のリウマチ薬との併用効果についての研究も進めています。日々リウマチ診療をする中で、既存のリウマチ薬が効かない患者さんや、使用できる薬剤が様々な理由により制限される患者さんを多く抱えており、それが本研究を進める大きなモチベーションになりました。本研究に多大なご協力を賜りました本学咀嚼障害制御学・山本朗仁先生、本学環境医学研究所教授・澤田誠先生、小野健治先生、中部大学生命健康科学部教授・古川鋼一先生をはじめ共著者の先生方、および当研究室の皆様に厚く御礼申し上げます。(名古屋大学大学院 整形外科学分野・高橋 伸典、松本 拓也)