日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 鈴木 英嗣

Mohawkノックアウトラットでは腱分化機構が破綻し、アキレス腱での異所性骨化を呈する

Gene targeting of the transcription factor Mohawk in rats causes heterotopic ossification of Achilles tendon via failed tenogenesis
著者:Suzuki H, Ito Y, Shinohara M, Yamashita S, Ichinose S, Kishida A, Oyaizu T, Kayama T, Nakamichi R, Koda N, Yagishita K, Lotz MK, Okawa A, Asahara H.
雑誌:Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Jul 12;113(28):7840-5.
  • 腱分化
  • Mohawk (Mkx)
  • ノックアウトラット

鈴木 英嗣
左から、嘉山先生・鈴木・浅原教授・中道先生

論文サマリー

 腱組織は細胞成分・血流に乏しいため、損傷後の修復において再断裂や癒着といった問題をしばしば生じるが、腱の発生・再生に関わる分子生物学的なメカニズムの詳細は分かっていない。これまでに我々は、転写因子Mohawk (Mkx)のノックアウトマウスでは全身の腱の低形成を認め、Mkxが腱の発生に重要であることを報告している(1)。このようにノックアウトマウスは重要な実験動物ではあるが、更なる研究においてはマウスより大型の動物での遺伝子改変が期待されていた。そこで我々は、ゲノム編集技術clustered regularly interspaced short palindromic repeats/CRISPR associated proteins (CRISPR/Cas9)を用いて、Mkx-/- ラットを作成し腱発生におけるMkxの機能解析を試みた。

 Mkx-/- ラットでは、Mkx-/- マウスと同様に全身の腱の低形成や、”wavy tail”と呼ばれる尻尾の弯曲が認められた(図1)(図2)。

鈴木 英嗣
(図1)Mkxノックアウトラット(左)とノックアウトマウス(右)

鈴木 英嗣
(図2)後肢 屈筋腱 野生型(左)とMkxノックアウトラット(右)

 さらにノックアウトラットを解析すると、Mkx-/- ラットのアキレス腱では、P0の時点で腱内に軟骨集積を認め、生後3週前後から内軟骨性骨化が進行した。そこで腱由来の間葉系幹細胞を採取し分化能を評価したところ、Mkxが骨・軟骨分化に抑制的に作用していると考えられた。さらにこの細胞に伸長刺激を加えたところ、野生型では腱関連遺伝子の上昇を認めた一方で、Mkx-/-では腱関連遺伝子の上昇は認められず、軟骨関連遺伝子の上昇を認めた。

 以上のことから各系統への分化におけるMkxの関与が示唆された。そこでMkx-/-腱由来細胞にHA標識されたMkxを導入し、次世代シークエンサーを用いたChIP-seq解析を行った。結合候補領域のアノテーションにて得られたオントロジーには skeletal system developmentがリストアップされ、このなかにはCol1a1, Col3a1, Mkxといった腱関連遺伝子のみならず、Sox5、Sox6、Sox9といった軟骨関連遺伝子も含まれていた。

参考
1. Ito, Y., Toriuchi, N., Yoshitaka, T., Ueno-Kudoh, H., Sato, T., Yokoyama, S., Nishida, K., Akimoto, T., Takahashi, M., Miyaki, S. et al. (2010) The Mohawk homeobox gene is a critical regulator of tendon differentiation. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 107, 10538-10542.

著者コメント

 腱分化における詳細なメカニズムはよくわかっていません。本研究では、CRISPR/Cas9を用いたノックアウトラットの作成を端緒に、腱分化メカニズムにおけるMkxの関与を解析しました。私は2012年より大学院生となり、研究室では多くの仲間に恵まれ、彼らと励まし合い/慰め合い/愚痴り合いながら、なんとか論文にまとめることができました。ご指導いただきました東京医科歯科大学システム発生再生医学・浅原弘嗣教授、整形外科学・大川淳教授をはじめ、本研究に御尽力いただいた先生方にはこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。(東京医科歯科大学整形外科学/システム発生再生医学・鈴木 英嗣)