日本骨代謝学会

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オステオポンチンは修復象牙質形成におけるⅠ型コラーゲン分泌に必須である

Osteopontin Is Essential for Type I Collagen Secretion in Reparative Dentin.
著者:Saito K, Nakatomi M, Ida-Yonemochi H, Ohshima H.
雑誌:J Dent Res. 2016 Aug;95(9):1034-41.
  • オステオポンチン
  • 窩洞形成
  • 象牙芽細胞

斎藤 浩太郎
左は責任筆者、右は筆頭著者

論文サマリー

 歯が磨り減ったり、う蝕や治療で切削されたりすると、歯髄側に新たに象牙質(第三象牙質)がつくられる。象牙質の中には象牙細管が存在しており、象牙細管の中には象牙芽細胞突起が入っている。象牙質が削られると、象牙芽細胞が一度死に、新たな象牙芽細胞が生まれて、第三象牙質の一種である修復象牙質が形成される。我々は、この新たに分化した象牙芽細胞が修復象牙質をつくる際に、既存の象牙質と修復象牙質との境界にオステオポンチン(OPN)が沈着されることを明らかにしたが(図1)、その機能的意義は不明であった。

斎藤 浩太郎
(図1)日本歯科評論 74(6): 41-56, 2014を改変

 OPNは骨基質接着タンパク質の1つであり、骨形成に重要な役割を演じる。Opn 遺伝子欠損(KO)マウスでは明らかな発生学的異常は認められないものの、皮膚、筋、脊髄など、損傷時の治癒過程において異常が認められることが多数報告されている。

 本研究では、Opn KOマウスを用いて、in vivo歯の切削実験と、象牙質・歯髄複合体の in vitro損傷培養実験を行い、修復象牙質形成過程におけるOPNの役割を検索した。

 野生型およびOpn KOマウスの双方において、窩洞形成後1日では、窩洞直下の象牙芽細胞が変性し、術後3日には新たな象牙芽細胞の分化が認められ、OPNは新たな象牙芽細胞の分化には必須ではないことが明らかになった。しかし、術後14日では、野生型マウスでは窩洞直下に修復象牙質形成が認められるのに対し、Opn KOマウスでは、修復象牙質形成が認められなかった。その原因を探るべく、新たに分化した象牙芽細胞の分泌活性を比較検討したところ、Opn KOマウスでは、新たに分化した象牙芽細胞が、象牙質の主体をなすI型コラーゲンを産生できないことが明らかになった(図2)。

斎藤 浩太郎
(図2)

 次に、OPNのⅠ型コラーゲン形成誘導能を検証するべく、リコンビナントOPN(rOPN)を用いて、象牙質・歯髄複合体のin vitro損傷培養実験を行ったところ、培養7日では、Opn KOマウスにおいて、新たに分化した象牙芽細胞にⅠ型コラーゲンの形成が認められなかったが、rOPN存在下で培養した群では、その発現がレスキューされていた。

 以上より、OPNが修復象牙質形成の必須因子であることが明らかになり、また、OPNの添加によりI型コラーゲン形成が促進されることも明らかになった。将来、OPNの添加などで、人為的に修復象牙質形成を賦活化する可能性も提示され、創薬開発にもつながると期待される。

著者コメント

 博士課程学位研究において、歯冠部移植後の歯髄治癒過程において既存の象牙質と修復象牙質との境界にオステオポンチン(OPN)の沈着が認められるという現象を明らかにしました。そこで本研究では、OPNは象牙芽細胞様細胞の分化の足場として働くという仮説の下、遺伝子欠損マウスを導入して機能解析を行いました。結果は予想に反しOPNの非存在下においても象牙芽細胞様細胞の分化は認められましたが、Ⅰ型コラーゲンが分泌されず修復象牙質形成が認められないという、より興味深い知見を得ることができ、必ずしも仮説通りにはいかない研究の面白さを実感しました。本研究にあたりご指導いただきました大島教授、依田准教授、中富講師に心から感謝申し上げます。(新潟大学大学院医歯学総合研究科硬組織形態学分野・斎藤 浩太郎)