日本骨代謝学会

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二次性副甲状腺機能亢進症を有する血液透析患者における副甲状腺ホルモン依存性のシナカルセトの効果: 周辺構造モデルを用いた時間依存性交絡の調整

PTH-dependence of the effectiveness of cinacalcet in hemodialysis patients with secondary hyperparathyroidism.
著者:Akizawa T, Kurita N, Mizobuchi M, Fukagawa M, Onishi Y, Yamaguchi T, Ellis AR, Fukuma S, Alan Brookhart M, Hasegawa T, Kurokawa K, Fukuhara S.
雑誌:Sci Rep. 2016 Apr 13;6:19612. doi: 10.1038/srep19612

栗田 宜明
著者・指導教官(福原先生)・共著者(福間先生)の写真

論文サマリー

シナカルセトは、維持透析患者で高値になる副甲状腺ホルモン(PTH)を下げる薬剤です。その結果として得られる心血管イベントの減少効果に期待が寄せられていました。そこで、シナカルセトが上市される直前から前向きに観察することによって、シナカルセトによる心血管イベントなどのハードなアウトカムの減少効果を検証したのがMBD-5D研究です。この研究では、intact PTHの重症度の別にシナカルセト処方開始の有効性が異なるかどうかを調べました。その結果、シナカルセト処方開始の有効性は、iPTH が高いほど大きい可能性があることが示されました。例えば、全死因死亡をアウトカムとした場合のシナカルセト処方開始の有効性については、iPTH ≧500 pg/mlの場合で発生率比が0.49(95%信頼区間0.29~0.82)、iPTH が300~<500 pg/mlの場合で発生率比が0.88(95%信頼区間0.61~1.29)、iPTH が<300 pg/mlの場合で発生率比が1.07(95%信頼区間0.77~1.48)でした(表)。

栗田 宜明
(表)血清iPTHのベースライン値で層別した、シナカルセト処方開始と臨床アウトカムの関係性(周辺構造モデル解析)

本研究では、ケース・コホート研究が採用されました。ベースラインで8229名の患者が全体コホートに登録されましたが、データ収集の対象となったのは全体コホートからランダムに抽出された3276名のサブコホート内の患者と、評価対象となったケース発症者です(図)。

栗田 宜明
(図)MBD-5D研究で採用した研究デザイン
サブコホートとケースに該当する症例のみ詳細なデータを収集することで、あたかも全体コホート分のサンプルサイズで解析できるデザインを採用した。

解析時にランダム抽出割合を活用した重み付けによって、全体コホート相当の検出力で分析できるデザインとなっています。

ミネラル代謝マーカー等の検査値・処方・アウトカムなどのデータは、3ヶ月ごとに収集されました。理由は、定期検査の結果を見て処方内容が変更され、その結果さらに検査値が変化するからでした。この場合、ミネラル代謝マーカーは、シナカルセト処方開始と臨床アウトカムの間の時間依存性交絡となります。通常の回帰モデルで、時間依存性交絡因子を調整すると、中間因子としての経路を通じた治療効果―例えば、シナカルセトによる血清カルシウム・血清PTH改善を通じた効果―が除かれてしまいます。そこで本研究では、周辺構造モデル解析によって、時間依存性交絡因子に対処しました。いくつかの仮定を満たすと、周辺構造モデル解析では、因果効果―すなわち、すべての患者がシナカルセト処方を開始された場合のアウトカムの発生率と、すべての患者が処方されなかった場合のアウトカムの発生率の違い―を推定することができます。この解析では、各時点のデータを用いた治療確率の逆数の累積を重み付けとして利用することで、各時点の交絡因子のつりあいのとれた、要因だけが異なる二つの擬集団の間でアウトカムを比較できるのです。

著者コメント

メンターの福原先生より解析を完結させるようにと仰せつかり、2013年9月に米国のcomparative effectiveness researchのエキスパートであるBrookhart先生(ノースカロライナ大学チャペルヒル校)を単独訪問しました。私は腎臓を主とした内科医なので、PTH の重症度の別による有効性を評価することを提案しました。米国滞在中は朝から晩までSASプログラムで解析しました。その甲斐もあり、convincingな結果が得られたとBrookhart先生からお墨付きを頂きました。スキルと話の中身があると、英語が流暢でなくても一生懸命聞いてくれることを実感しました。この研究はステアリング委員の先生によるご指導、iHopeの大西良浩様の支援、東北大学の山口拓洋先生、大阪大学の新谷歩先生らのご助言など、多くの先生方のご協力で実現しました。感謝申し上げます。(福島県立医科大学附属病院 臨床研究教育推進部・栗田 宜明)