日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 岩本 依子

角化重層扁平上皮と線維芽細胞間の細胞間コミュニケーションが局所での破骨細胞分化を誘導する—真珠腫による骨破壊メカニズム−

Intercellular Communication between Keratinocytes and Fibroblasts Induces Local Osteoclast Differentiation: a Mechanism Underlying Cholesteatoma-Induced Bone Destruction.
著者:Iwamoto Y, Nishikawa K, Imai R, Furuya M, Uenaka M, Ohta Y, Morihana T, Itoi-Ochi S, Penninger JM, Katayama I, Inohara H, Ishii M.
雑誌:Mol Cell Biol. 2016 May 16;36(11):1610-20.
  • 真珠腫
  • 角化扁平上皮細胞
  • 破骨細胞

岩本 依子

論文サマリー

 本研究では、真珠腫性骨破壊モデルマウスを作出し、その病態メカニズムの解明に取り組みました。真珠腫とは、中耳内に生じる非腫瘍性の腫瘤で、線維芽細胞を含む結合組織層と角化重層扁平上皮層からなります。真珠腫は隣接する骨を溶かす性質があるために、進行例では側頭骨の破壊によって顔面神経麻痺や髄膜炎などの重篤な合併症を引き起こします。従って、不明な点が多い病態メカニズムを明らかにし、保存的治療につながる研究が求められています。

 現在、真珠腫による骨破壊を簡便に評価できる動物モデルがないために、最初にマウスモデルの作出に取り組みました。真珠腫の構成細胞である角化扁平上皮細胞と線維芽細胞をマウスの耳介より単離し、両者を混合しマウス頭頂骨膜下に注射したところ、骨膜下に腫瘤が形成されました。組織学的解析の結果、この腫瘤は重層分化した角化扁平上皮細胞とそれを取り巻く線維芽細胞から成る真珠腫と類似した組織構造をもつことが明らかとなりました。さらに、この真珠腫様組織に近接した骨組織において、多数の破骨細胞が観察されました(図1)。

岩本 依子

 本マウスは、真珠腫による骨破壊を解析する上で、有用なマウスモデルになると考えています。

 次に、マウス耳介由来の線維芽細胞と角化扁平上皮細胞を用いた共存培養系を確立し、真珠腫による破骨細胞の誘導機構を解析しました。その結果、角化扁平上皮細胞の培養上清が、線維芽細胞におけるRANKL発現を上昇させることが明らかになりました。さらに、このRANKL発現の亢進が、骨髄由来単球マクロファージ系前駆細胞から破骨細胞への分化に重要であることも明らかとなりました。これらの結果から、角化重層扁平上皮から分泌される液性因子が、線維芽細胞のRANKL発現を亢進することで、破骨細胞誘導にかかわることが示唆されます。従って、真珠腫上皮から分泌される液性因子が引き金となって、線維芽細胞が破骨細胞を誘導することが、真珠腫による骨破壊の一因となっていることが考えられます(図2)。

岩本 依子

著者コメント

 中耳真珠腫は、罹患率が低い上に、手術でその多くが治癒できることから、基礎研究はあまり進んでいませんでした。しかし、重篤な合併症例や術後の再発症例を臨床で目の当たりにし、保存的治療につながる基礎研究の必要性を強く感じていました。そんな折、真珠腫による骨破壊の病態メカニズムを明らかにすることを研究テーマとして、石井優教授の教室で4年間研究の機会を与えて頂きました。石井研では様々なマウスモデルを用いた生体イメージングの研究に日夜多くのラボメンバーが取り組んでおり、病態を模倣した優れたマウスモデルを用いた研究によって得られる知見は有用な応用研究につながることを学びました。当初、真珠腫にはこれまで簡便な骨破壊モデルがないため、マウスモデルを最初に作出しなくてはならない苦労もありました。しかし、臨床検体の解析では決して得ることができない、保存的治療の開発につながる研究成果を得ることができたと思っています。
 現在は大学院を修了し、耳鼻科医として臨床業務に従事しています。基礎研究の経験を踏まえ、一つ一つの疾患に疑問の目を持ちながら働ける医師になりたいと思います。最後に、ご指導頂いた石井教授と猪原教授、貴重なノックアウトマウスを御恵与いただきました宇田川先生、そしてご協力いただいた多く先生方にこの場を借りて感謝申し上げます。(大阪府立母子保健総合医療センター耳鼻咽喉科・岩本 依子)