日本骨代謝学会

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TGFβ-2はメダカ骨折修復において骨芽細胞の遊走と分化に必須である

TGFβ-2 signaling is essential for osteoblast migration and differentiation during fracture healing in medaka fish.
著者:Takeyama K, Chatani M, Inohaya K, Kudo A.
雑誌:Bone. 2016 Mar 4;86:68-78.
  • 骨折修復
  • TGF-β
  • 骨芽細胞

武山 和弘

論文サマリー

 TGFβは炎症に応答して分泌されるサイトカインの一つであり、発生の過程においても、細胞の分化や増殖、遊走を刺激する重要な働きを持っている。また、骨代謝においては、骨質中に豊富に含まれる潜在型TGFβが破骨細胞によって活性化されることで、骨形成を制御すると考えられている。そのため、TGFβは典型的なカップリングファクターの一つとして研究されてきた。TGFβはTGFβ-1~3の3つのアイソフォームが知られており、共通の受容体をもつ。興味深いことに、遺伝子欠損マウスの表現型や遺伝子発現パターンが異なることなどから、それぞれのアイソフォームが別々の働きをすることが示唆され、TGFβの機能をより複雑にしている。骨折修復において、TGFβアイソフォームがそれぞれ発現上昇することが知られているが、発現細胞やその機能については報告されていない。

 そこで、私たちは以前に開発したメダカ骨折修復モデルを用いて骨折修復過程におけるTGFβの機能解析を行った。この実験系では薄く透明なメダカの尾ひれを用いることで、蛍光標識した細胞を生きたまま解析することができることに加え、血管を含む周囲の軟組織をほとんど傷つけない骨組織特異的な修復を解析することができる(Takeyama et. al., 2014, Dev. Biol.)。

 RNA in situ hybridizationによる遺伝子発現解析の結果、4つのメダカTGFβアイソフォームのうちTGFβ-2のみが骨形成領域において発現していた。さらに、潜在型TGFβ-2を活性化しうるMMP-2とMT1-MMPが同様の場所で発現していた。TGFβ-2の機能を解析するために、魚類において未熟な骨芽細胞で発現している10型コラーゲンプロモーター下流でGFPを発現する遺伝子組み換えメダカを用いた。10型コラーゲン陽性細胞は隣接する鰭条表面から骨折部に移動し、骨折部においてosterix陽性の骨芽細胞に分化した。これらの骨芽細胞はBrdUをほとんど取り込まず、メダカ骨折修復において骨芽細胞は増殖によらず隣接する鰭条表面からの移動により供給されることが明らかになった。

 TGFβ受容体の阻害剤を用いて、TGFβシグナルを抑制したところ、骨芽細胞の骨折部への移動と骨折部での分化が著しく阻害された。さらに、RANKLの発現を抑制することで、血管表面での破骨細胞の分化も抑制された。以上の結果から、TGFβ-2は骨折修復において、骨芽細胞を骨折部に呼び寄せ、骨芽細胞と破骨細胞の分化を制御する働きをもつことが示唆された。

著者コメント

 学部の卒業研究としてこの研究に取り組み始めた当初は本当に無知で、メダカのような魚類と私たち哺乳動物のシステムがどのくらい違うかということを全く理解していませんでした。知れば知るほど、違うことばかりわかってしまい非常に辛かった時期もありました。違うことを利用して新しい方法で共通した部分を解析すればいいと気づいたのは博士課程に進んでからだったと思います。発生生物の学術誌で発表したメダカ骨折修復モデルを、自分自身の手で発展させ、このような形で骨代謝研究の学術誌で発表できてとても嬉しく思っています。卒業に伴い研究テーマは変わりますが、今後も人の役に立つ研究を目標に努力していきたいと思っております。(東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生命情報専攻・武山 和弘)