日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 田村 麻由子

ゲノムワイドSNPアレイ解析を用いた12番染色体全長性片親性ダイソミーによるビタミンD依存性くる病2型 (HVDRR)発症の解明

Detection of Hereditary 1,25-Hydroxyvitamin D-Resistant Rickets Caused by Uniparental Disomy of Chromosome 12 Using Genome-Wide Single Nucleotide Polymorphism Array.
著者:Tamura M, Isojima T, Kawashima M, Yoshida H, Yamamoto K, Kitaoka T, Namba N, Oka A, Ozono K, Tokunaga K, Kitanaka S.
雑誌:PLoS One. 2015 Jul 8;10(7):e0131157.
  • ビタミンDレセプター
  • 片親性ダイソミー
  • くる病

田村 麻由子

論文サマリー

 ビタミンD依存性くる病2型 (HVDRR)は、ビタミンD受容体 (VDR)遺伝子の両アレルの変異により起こる常染色体劣性遺伝性疾患である。現在までに片親性ダイソミー (UPD)による本症の発症は報告されていない。本研究では、12番染色体UPDによるHVDRRの発症をゲノムワイドSNPアレイ解析にて示した。

 症例は2歳女児で、禿頭と低身長を指摘され、くる病所見を呈し、典型的な血液検査所見によりHVDRRと診断された。両親の血族婚はなかった。VDR遺伝子解析を行い、p.Arg73Ter変異をhomozygousで見出した。これは機能低下を示す既報のナンセンス変異である。患児の母は同変異をheterozygousに有していたが、父は正常であった。近傍のSNP解析や染色体分析等により、父由来の広範囲の欠失は否定的であり、12番染色体の母親由来UPDが疑われた。そこで、ゲノムワイドSNPアレイ解析を患児、両親について行った。図は、患児と両親の12番染色体の結果を示している。正常であれば、heterozygous allelesと、homozygous allelesが父、母のグラフのように分布するが、患児の12番染色体はheterozygous alleleがなく、loss of heterozygosityの状態であった。さらに、それぞれのSNPがどちらの親由来であるのかを解析した。由来を断定できたものの中で母由来のSNPをピンク、父由来を青色で表したところ、母由来であるSNPは12番染色体全長にわたりみられるのに対し、父由来のものは一つもなかった。これより、患児は、変異のある母親12番染色体の全長性isodisomyによって発症したことが判明した。

 患児は、経口カルシウム大量療法にて治療を行い、臨床所見の改善が得られた。

 HVDRRのUPDによる発症は、文献上初めての報告であり、12番染色体全長のUPDは3例目である。ゲノムワイドSNPアレイ解析は、片親性isodisomyの同定に有用である。さらに、homozygous変異においてUPDを証明することは、正確な遺伝カウンセリングやUPDによる他の疾患の発症の予見のために重要である。また、重症HVDRRの初期治療として、経口カルシウム療法が有効であることがわかった。

田村 麻由子

著者コメント

 小児科臨床から研究の道に入り、研究の成果を実際の臨床に生かすにはどうすればよいかと考えておりました。はじめHVDRRの確定診断目的に行った遺伝子解析で意外にも非定型的遺伝形式を示し、その発症機序を解明するためにさまざまな解析を試みつつ、最終的に、ゲノムワイドSNPアレイ解析を用いることで、その機序を解明することができました。このように、ゲノム解析の分野で急速に発展する新しい技術の一つを用い、実際の患者さんの診断と遺伝性の解明に役立てられたことを、とても嬉しく思っております。さらに、日本では極めて稀な本疾患の治療を大阪大学で行っていただき、患者さんに負担が少ない経口カルシウム療法の有用性を提案できたこともよかったと思います。(東京大学医学系研究科小児医学講座・田村 麻由子)