日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 井上 和樹

SREBP阻害剤Fatostatinは破骨細胞分化抑制によりRANKL誘導性骨量減少を予防する

Fatostatin, an SREBP inhibitor, prevented RANKL-induced bone loss by suppression of osteoclast differentiation.
著者:Inoue K, Imai Y.
雑誌:Biochim Biophys Acta. 2015 Aug 28. pii: S0925-4439(15)00255-0
  • 破骨細胞
  • SREBP2

井上 和樹

論文サマリー

 破骨細胞分化は、c-Fos,, Nfatc1をはじめとする様々な転写因子群が協調的に作用することにより制御される。以前我々は、さらなる新規転写因子群の同定 を目指し、“DNase-seq”を用いたゲノムワイドスクリーニングにより新規転写因子群を同定することに成功した(Inoue K, Imai Y. JBMR. 2014.)。本研究では、同定された新規転写因子群の一つであるSrebf2に着目し、その生体内機能解析を試みた。Srebf2はSREBP2をコードする遺伝子であり、コレステロール代謝を制御するマスター転写因子として知られる。コレステロール代謝と破骨細胞分化・機能との関係を示す研究が報告されているものの、SREBP2の全身性ノックアウトマウスは胎生致死であり、骨代謝およびin vivoでの破骨細胞分化における機能は全くの未知であった。そこで、SREBPの活性化阻害剤の一つであるfatostatinを用いることで、生体内機能解析を試みた。

 はじめに、fatostatinがin vitroにおいて破骨細胞分化を制御するかを検討した。Raw264細胞にfatostatinを処理したところ、SREBP2の活性化阻害が認められた。さらにTRAP陽性多核破骨細胞数および破骨細胞遺伝子群の発現が有意に低下した。これらの結果より、in vitro細胞培養系において、fatostatinはSREBP2の活性阻害を介して、破骨細胞分化を抑制することが明らかとなった。次に、fatostatinの骨代謝への効果を検討した。まず、Fatostatinを野生型マウスに長期間投与し解析したところ、非投与群と投与群において、骨量に差は認められなかったことから、生理条件下においては、fatostatinは骨代謝制御に関与しないことが明らかとなった。そこで、病態条件下におけるfatostatinの効果を検討した。病態モデルとして、RANKL投与急性骨破壊モデルを用いた。その結果、fatostatin投与群において、RANKL投与による骨破壊が有意に抑制された。さらに、in vivoでのfatostatinの破骨細胞分化における効果を組織学的に解析した。その結果、RANKL投与により増加した破骨細胞パラメーターが、fatostatin投与により抑制された。これらの結果より、病態条件下においてfatostatinは破骨細胞分化を抑制することにより、骨破壊を阻害することが明らかとなった。以上の結果より、SREBP2が生体内においても破骨細胞分化を制御する可能性が示唆され、骨粗鬆症治療の新たな標的分子となると推測された。

井上 和樹

著者コメント

 薬剤投与実験は、条件検討に時間・労力(・お金)を要し苦労しましたが、ゲノムワイドスクリーニングで同定した新規転写因子が生体内においても破骨細胞分化に関与する可能性を示すことができました。破骨細胞分化・機能の転写制御メカニズムはまだまだ不明な点が多く、研究するほどその複雑さに頭を悩ましますが、その全容の解明に少しでも迫れるように今後も研究を進めていきたいと思います。愛媛大・今井祐記教授をはじめご指導いただいた先生方にこの場を借りて感謝申し上げます。(愛媛大学・井上 和樹)