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日本人高齢者の健康状態:要介護、慢性疾患、死亡率の推移

The State of Health in Older Adults in Japan: Trends in Disability, Chronic Medical Conditions and Mortality.
著者:Ishii S, Ogawa S, Akishita M.
雑誌:PLoS One. 2015 Oct 2;10(10):e0139639.
  • 慢性疾患
  • 要介護
  • 老年病学

石井 伸弥

論文サマリー

日本では過去数十年にわたり平均寿命および健康寿命が延伸してきたが、同時にその両者の差(=日常生活に制限のある期間)も徐々に拡大しつつある。日常生活機能制限の危険因子として種々の慢性疾患が知られている。日本におけるそれらの慢性疾患の有病率や要介護者の割合の経年変化を報告した調査は数少ないが、それらの経年変化を年代階層別に調査することによって種々の慢性疾患と日常生活機能制限の関係を調査し、また実際の健康状態の変化を調べられると考えられる。

今回我々は厚生労働省から発表された人口動態(1995-2010年)、患者調査(1996-2011年)、国民生活基礎調査(2001-2013年)のデータを用いて高齢者の年代階層別(65-69歳、70-74歳、75-79歳、80-84歳)に介護保険制度下で要介護の認定を受けた人の割合(要介護率)、死亡率(総死亡率および疾患別死亡率)、受療率をそれぞれ男女別に調査を行った。受療率を調査した疾患は脳血管障害、関節疾患(炎症性多発性関節障害と関節症が含まれる)、骨折、骨粗鬆症、虚血性心疾患、糖尿病、高血圧、肺炎、悪性新生物の九疾患である。受療率は推計患者数を人口10万対であらわした数であるが、捕捉率の高い疾患においては概ね有病率を反映していると考えられる。認知症は近年捕捉率の変動が大きく受療率が有病率を反映しているとは考えられなかったため、今回の解析の対象とはしなかった。高齢者全体としてみると肺炎と女性における骨折を除いた他全ての疾患において受療率は男女ともに経年で低下していた。総死亡率、疾患別死亡率、要介護率においても同様に男女ともに経年で低下していた。各年代別にみると、特に脳血管障害、骨粗鬆症、虚血性心疾患においては全ての年代において受療率の大きな低下がみられ、2011年時の各年代階層における有病率は1996年時の5歳若い年代の有病率とほぼ同等かそれより低かった。

石井 伸弥
1996年から2011年にかけての高齢男性における慢性疾患受療率の推移

石井 伸弥
1996年から2011年にかけての高齢女性における慢性疾患受療率の推移

多くの慢性疾患の年代別有病率の低下は死亡率の低下と並行して起こっているため、生存バイアスの結果というより実際の健康状態が改善していることを反映していると考えられる。要介護率の低下とあわせて考慮すると日本人高齢者の近年における健康状態の改善を示唆していると考えられた。

著者コメント

 高齢者の日常生活に関する意識調査結果では高齢者の定義を65歳より高い70歳や75歳とするべきだとする回答が大多数を占めています。この調査にもみられるように、日常生活において近年の高齢者は元気になっているという実感を持つことが増えているように思われますが、本研究ではそれを裏付ける結果となりました。
私が研究を志したのは大学卒業後数年が経ってからでしたが、私の取り組んでいる研究がもっぱら疫学や臨床研究であるため、これまでや現在の臨床経験がもたらす臨床的な視点が研究に役立っているという実感があります。今後もそうした視点を大事にしながら臨床、研究と取り組んでいきたいと思います。(東京大学大学院医学系研究科加齢医学・石井 伸弥)