日本骨代謝学会

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α2-アンチプラスミンはマウスにおいて卵巣摘出による骨量減少に関与する

α2-Antiplasmin is involved in bone loss induced by ovariectomy in mice
著者:A, Kawao N, Yano M, Okada K, Tamura Y, Okumoto K, Matsuo O, Akagi M, Kaji H.
雑誌:Bone. 2015 Oct;79:233-41.
  • α2-Antiplasmin
  • 閉経後骨粗鬆症
  • 炎症性サイトカイン

汐見 光人

論文サマリー

 これまで、線溶系各因子の各臓器における線溶系とは独立した役割が報告されている。骨代謝領域では、プラスミノゲンは骨代謝および骨修復に必要であり(Kanno et al., J Biol Chem 2011) (Kawao et al., J Bone Miner Res 2013)、またプラスミノゲンアクチベーター阻害因子(PAI)-1は糖尿病における骨量低下や骨修復遅延、ステロイドによる骨量減少に関与していること(Tamura et al., Diabetes 2013) (Mao et al., PLoS One 2014) (Tamura et al., Diabetes 2015)が報告されている。α2-Antiplasmin(α2-AP)は、主に血中でプラスミン活性を阻害する因子として知られている。しかし、α2-APの骨代謝における役割については、ほとんどが不明であった。そこで今回、臨床的にも重要な閉経後骨粗鬆症におけるα2-APの役割を明らかにするため、卵巣摘出(OVX)マウスでの骨量減少におけるα2-APの影響を、α2-APを欠損させたノックアウト(KO)マウスおよび野生型(WT)マウスを用いて検討した。

 その結果、まずWTマウスにおいて、α2-APの発現は主に肝臓で認められ、OVXにより血中α2-AP濃度は上昇を認めた。In vitroでは、マウスのprimary hepatocyteへの17β-estradiol添加はα2-AP発現量を低下させたことから、エストロゲン欠乏が主に肝臓でのα2-AP産生を亢進させていることが示唆された。KOマウスでは、OVXによる海綿骨密度の減少が抑制されていることが定量CT解析で明らかとなり(図A-D)、またOVXによるCTXやBAPといった血中骨代謝マーカー濃度の上昇が抑制されていた。さらに、OVXによる骨組織でのRANKL/OPG発現比の上昇が抑制されていた。これらのことから、女性ホルモン欠乏による骨密度低下や骨代謝回転増加にα2-APが関与することが示唆された。

汐見 光人

 次に、in vitroでα2-APの各種細胞への直接効果を検討した。マウス骨芽細胞様細胞株へのα2-AP処理は、各種骨分化遺伝子の発現量には変化を与えなかった。他方、マウス単球様細胞株へのRANKL刺激による破骨細胞分化誘導下でのα2-AP処理は、TRAP陽性多核細胞への分化を抑制し、TRAPやカテプシンKといった破骨細胞特異的遺伝子の発現も抑制した。以上の結果から、α2-AP欠損のOVXによる海綿骨密度減少に対する抑制作用は、骨芽細胞や破骨細胞への直接効果とは異なる機序を介していることが考えられた。

 閉経後骨粗鬆症では単球系細胞などでの炎症性サイトカインの産生亢進が病態に関与することが報告されていることから、この機序へのα2-APの関与を検討するため、マウス単球様細胞株へのα2-AP添加を行った。その結果、IL-1βおよびTNF-αの発現量上昇を認めた。またIn vivoでも、実験マウス各群の血中IL-1β濃度を検討すると、KOマウスではOVXによるIL-1βの上昇が抑制されていた。一方でマウス単球様細胞株へのプラスミン処理はIL-1β発現量に変化を与えなかったことから、α2-APの単球様細胞でのIL-1β発現増加作用は、線溶系を介さないことが示唆された。さらに検討を進めると、マウス単球様細胞株へのα2-AP処理は、ERK1/2およびp38 MAPKのリン酸化を誘導し、また培養液中へのERK1/2あるいはp38 MAPKの阻害剤の添加は、いずれもα2-APによるIL-1βの発現亢進を抑制した。このことから、α2-APの単球様細胞でのIL-1β発現増加作用は、MAPK系を介していると考えられる。

汐見 光人

 今回の一連の実験結果から、エストロゲンの欠乏により肝臓での産生が亢進したα2-APは、単球系細胞での炎症性サイトカインの産生を増加させ、これが直接あるいはRANKLの産生増加を通じて破骨細胞形成を亢進させることで、閉経後の骨粗鬆症を惹起していることが示唆された。

著者コメント

 整形外科医としての日常診療の中で、骨折治療とともに骨粗鬆症の診断・評価・治療を行っていくことが、近年ますます重要視されてきていると感じています。今回、当整形外科の大学院生として初めて、再生機能医学教室で骨代謝の研究をさせて頂き、また閉経後骨粗鬆症という臨床的にも重要なテーマで発症機序の新たな知見を見出すことができました。私をこのような素晴らしい機会に引き合わせて頂いた整形外科・赤木將男教授、限られた時間の中でも研究結果が出るように的確に導いて下さった再生機能医学・梶博史教授、出来の悪い大学院生にも懲りることなく日々熱心にご指導頂いた同・河尾直之先生をはじめ、ご指導・ご協力頂いた諸先生方にこの場をお借りして感謝申し上げます。(近畿大学大学院医学研究科 医学系専攻・汐見 光人)