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IRE1α-XBP1経路を介した不良タンパク質応答は、破骨細胞形成を制御する

IRE1α/XBP1-mediated branch of the unfolded protein response regulates osteoclastogenesis.
著者:Tohmonda et al.
雑誌:J Clin Invest 2015 in press
  • 破骨細胞
  • 小胞体ストレス
  • カルシウム

東門田 誠一

論文サマリー

 分泌タンパク質は小胞体にて様々な修飾を受け、成熟したタンパク質として放出される。しかしながら、正常な高次構造を獲得できなかった不良タンパク質は小胞体に蓄積し、細胞の機能維持の障害となる。これがいわゆる小胞体ストレスである。これを回避するため、細胞には不良タンパク質応答と呼ばれる防御機構が備わっている。小胞体に局在する膜貫通型タンパク質IRE1αは、この不良タンパク質を感知するセンサーとして機能する分子である。活性化されたIRE1αは、細胞質に存在するXbp1のmRNAをスプライシングし、転写因子XBP1の産生を誘導する。XBP1は核へと移行し、分子シャペロン、酸化還元酵素、膜生合成関連酵素などの多種の遺伝子の発現を促進する。興味深いことに、不良タンパク質応答は小胞体の機能維持にとどまらず、細胞分化制御、免疫応答、さらには糖代謝の調節など、多彩な生理機能を担っていることが近年解明されつつある。本論文では、破骨細胞分化過程において活性化されるIRE1α-XBP1経路が、Nfatc1の発現を制御し、破骨細胞分化を促進することを明らかにした。

 まず予備実験にて、破骨細胞分化過程における不良タンパク質応答の活性を検討したところ、IRE1α-XBP1経路が分化過程において一過性に活性化されることを見出した。そこで、骨髄細胞からIRE1αを欠損させた遺伝子改変マウスを作製し、破骨細胞分化におけるIRE1α-XBP1経路の機能解析を試みた。本遺伝子可変マウスから採取した骨組織を詳細に検討したところ、海綿骨量の増加とともに、海綿骨表面の破骨細胞数が野生型マウスに比較して有意に減少していることが観察された。一方で骨芽細胞数や、骨芽細胞の分化マーカーの発現量に明らかな違いは認められなかった。また、IRE1αを欠失した骨髄由来マクロファージでは、破骨細胞形成能が野生型と比較し顕著に低下していることが明らかとなった。これらの結果から、IRE1αは破骨細胞分化を正に制御する因子であると仮説を立て、IRE1α欠損細胞を用いて破骨細胞分化の制御に関わる遺伝子の発現解析を行った。その結果、c-fos、 c-Jun、NF-κB、PU1、Mitfなどの発現に変化はなかったが、Nfatc1の発現のみが有意に低下していることが確認された。さらに詳細な検討から、Nfatc1遺伝子の転写開始点上流にはXBP1結合様配列が存在し、その結合領域を介してXBP1がNfatc1の転写を直接制御することを見出した。また、破骨細胞分化初期に誘導されるIP3受容体を介した小胞体内腔から細胞質へのCa2+の流出によって、IRE1α-XBP1経路の活性化が引き起こされることを明らかにした。

東門田 誠一

以上の結果から、IRE1α-XBP1経路は破骨細胞分化過程において活性化され、Nfatc1の転写を介して、その分化を促進すると結論した。また、本研究によって、不良タンパク質応答は、破骨細胞分化の制御因子としての機能を有することが示された

著者コメント

 近年、不良タンパク質応答の多彩な生理機能が大きくクローズアップされてきています。本研究では、IRE1α-XBP1経路に注目し、破骨細胞分化における不良タンパク質応答の機能解明を試みました。実験の進展に伴い次々に興味深いデータを得ることができましたが,その意外な実験結果に,当初は自己懐疑の連続でした。しかし、全ての実験結果を検証し得たときに,ようやく良きテーマに巡り合えた幸運に,感謝の念がわきました。とりわけ、破骨細胞分化過程で生じる小胞体内カルシウム濃度の変動が、不良タンパク質応答を惹起し、破骨細胞分化を促進するという結果は、自身でも信じがたい発見でした。最後になりますが、本研究を通して公私ともに支えて下さいました依田昌樹先生、ご指導頂きました堀内圭輔先生、そして心温かい研究室の皆様に改めて御礼申し上げます。(慶應義塾大学 抗加齢運動器学・整形外科学・東門田 誠一)