日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 山本 卓

レニンーアンギオテンシン系阻害薬は血液透析患者の骨折リスク減少に関連する

Use of Renin-Angiotensin system inhibitors is associated with reduction of fracture risk in hemodialysis patients.
著者:Yamamoto S, Kido R, Onishi Y, Fukuma S, Akizawa T, Fukagawa M, Kazama JJ, Narita I, Fukuhara S.
雑誌:PLoS One. 2015 Apr 13;10(4):e0122691.
  • 骨折
  • レニン-アンギオテンシン
  • 尿毒症性骨粗鬆症

山本 卓
「Kidney Rocks」のスクラブを着て日々診療しています。「エレガント(紫)」な成田教授(写真中央)、「真っ黒」な風間准教授と筆者(右、左それぞれ)。
写真をご一緒できませんでしたが、共著の先生方みなさまに感謝申し上げます。

論文サマリー

 本研究は透析患者における骨折発症とレニンーアンギオテンシン系 (renin-angiotensin system: RAS)阻害薬使用の関連ついて調査したものです。

 慢性腎臓病 (chronic kidney disease: CKD) 患者、特に透析療法を必要とする末期腎不全患者は骨折の高リスクグループです。その原因としてCKDに伴う骨・ミネラル代謝異常 (CKD-mineral and bone disorder: CKD-MBD)が大きく関与していると考えられ、日常診療ではカルシウム、リン、副甲状腺ホルモン (parathyroid hormone: PTH)の管理が行われていますが、骨折頻度の抑制効果は十分とは言えません。その一方で近年、CKD患者で尿毒症状態による骨粗鬆症の増悪が知られています(尿毒症性骨粗鬆症)が、当時CKD患者、特に透析患者ではビスフォスホネート製剤などの骨粗鬆症薬は使用しにくい現状でした。RAS阻害薬は透析患者の高血圧に対し頻用されていますが、基礎研究でRASの亢進は破骨細胞の活性、骨吸収を促進することが明らかにされ、また臨床研究でRAS阻害薬は一般人口の骨密度を増加させ、骨折リスクを軽減すると報告されました。以上から私たちはRAS阻害薬の使用による骨折への影響は骨粗鬆症が進行している透析患者でさらに大きく表れる可能性があると考え、調査しました。

 本研究は多施設共同研究で3年間前向きに調査したMBD-5D (mineral and bone disorder outcomes study for Japanese CKD stage 5D patients)のデータを使用しました。対象は二次性副甲状腺機能亢進症(インタクトPTHが180 pg/mL以上、かつ、または活性型ビタミンD製剤を使用している)を合併した慢性透析患者です。3276名の症例を調査開始時にRAS阻害薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬またはアンギオテンシンII受容体拮抗薬)使用の有無で2群に分け、アウトカムをあらゆる骨折による入院とし、平均2.7年を調査しました。RAS阻害薬使用と骨折による入院の関連をCOX回帰モデルで解析しました。さらにその関連について二次性副甲状腺機能亢進症の程度(インタクトPTH)の影響を調査しました。その結果、骨折頻度は全体で5.42%であり、RAS阻害薬の使用は骨折による入院頻度の減少と関連しました (ハザード比, 0.65; 95%信頼区間, 0.45–0.92)。インタクトPTHを四分位して調べたところ、PTH 196-265 pg/mLの群でRAS阻害薬使用と骨折頻度減少の関連が大きく表れる傾向にありました。以上からRAS阻害薬の使用は二次性副甲状腺機能亢進症を合併した血液透析患者の骨折による入院の減少と関連し、その効果はPTHがある程度コントロールされていると大きく表れることを明らかにました。

著者コメント

 CKD患者、特に透析患者の骨折の頻度は極度に高く、骨折後の生命予後も悪いことが知られています。しかしながら骨折予防に対する治療は十分確立していません。そこで今回は透析患者で降圧薬として頻用されているRAS阻害薬に注目して調査しました。共著者である新潟大学の風間順一郎先生、成田一衛教授から勧めていただき、MBD-5D研究のリサーチクエスチョンに応募し、幸い採択していただき、ステアリングコミッティの先生方とiHope International の先生方と研究を行うことができました。結果は腎臓病学だけにとどまらないインパクトを感じましたので盛り上ってしまい、いわゆる世界五大誌に投稿を続けましたが、最終的に本雑誌に採択されました。風間先生は、「世間は何もわかってないなあ」とフォローしてくれましたが、世間知らずだったのは私だったのかもしれません(笑)。(新潟大学腎医学医療センター・山本 卓)