日本骨代謝学会

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Rhinacanthin C は破骨細胞の分化と骨吸収を抑制する:TRAF6/TAK1/MAPKs/NF-κB/NFATc1 シグナリングの役割

Rhinacanthin C Inhibits Osteoclast Differentiation and Bone Resorption: Roles of TRAF6/TAK1/MAPKs/NF-κB/NFATc1 Signaling.
著者:Tomomura M, Suzuki R, Shirataki Y, Sakagami H, Tamura N, Tomomura A.
雑誌:PLoS One. 2015 Jun 17;10(6):e0130174.
  • 破骨細胞
  • Rhinacanthin C
  • RANKL

友村 美根子

論文サマリー

 我々は植物抽出液から抗破骨作用をもつ成分を探索する過程で,白鶴霊芝メタノール分画に強い活性を見出した.白鶴霊芝はインド~東南アジア~中国南部に分布する常緑小低木で,これらの地域では古くから肝炎,糖尿病,高血圧,感染症,癌、皮膚疾患などの治療に使用されてきた.さらに精製を進めた結果,Rhinacanthin Cを同定した.Rhinacanthin Cはナフトキノン誘導体であるが,同じくナフトキノン誘導体であるRhinacanthin D,N,Qは破骨細胞分化抑制効果が低いことから側鎖の構造が重要であることが予想された.

 本研究ではRhinacanthin Cの破骨細胞分化抑制の分子機序について解析をおこなった.Rhinacanthin Cは単離初代培養骨髄細胞のM-CSFによるマクロファージや破骨前駆細胞の形成頻度を抑えないが,RANKLによるマクロファージ・破骨前駆細からの破骨細胞への分化のステップを濃度依存的 (0.25-2.0μM)に抑えた.この抑制効果は可逆的で,Rhinacanthin Cを培地から取り除くと分化能は回復した.Rhinacanthin C を添加するとRANKLによるc-Fos及び破骨細胞分化のマスター転写因子であるNFATc1の発現誘導が抑制された. Rhinacanthin C はp38を除くERK, JNKおよびNF-κBのリン酸化を抑制し,その上流にあるTRAF6-TAK1の複合体形成を抑えた.従ってRhinacanthin Cの破骨細胞形成抑制作用機序としてRANKLによるTRAF6-TAK1の複合体形成を抑えることにより,MAKPキナーゼ,NF-κBのリン酸化が起こらずNFATc1の発現が不十分となり破骨細胞の分化に至らないと考えられた(図参照).

友村 美根子

さらにRhinacanthin C の抗破骨作用を検証するために,In vivo実験を行った.RANKLをマウスの頭骸冠骨膜下に5日間投与すると頭骸骨吸収が観察されるが,Rhinacanthin C同時投与により頭骸骨吸収および破骨細胞産生数が低下した.またRhinacanthin CはLPS誘導性の上記in vitro およびin vivoの系における破骨細胞形成,および骨吸収作用も抑えた.以上のことからRhinacanthin Cは白鶴霊芝の抗破骨作用の本体と考えられ,骨粗鬆症や炎症性骨吸収の治療薬のリード化合物として応用できる可能性が示唆された.

著者コメント

 高齢化社会に突入した昨今,機能性食品が見直されている.生薬学講座と共同で立ち上げたプロジェクトグループ(写真:手に持っている植木鉢の植物が白鶴霊芝)も高齢化社会を身近な問題としてモチベーションは誰にも負けない.精製を進めていく過程は宝物を掘り出す感覚である.この仕事はPLOS Oneに投稿する前に,物足りなさを実感してはいたがin vitroだけの仕事として別ジャーナルに投稿したが,あっさりとリジェクトを食らった.それならばと結合タンパク,もしくはin vivoのデータを追加しようと決めた.結合タンパクの同定は時間がかかりそうなのでin vivoの実験を組んだ. ストーリー上は,RANKLの作用に対するRhinacanthin Cの作用を見るのが筋だが,RANKLは高額が予想されたのでLPS誘導性骨吸収に対する効果を見た.すでにin vitroではRhinacanthin CはLPSによる骨吸収を止める事を確認していた.しかし,レビューアーはその点をズバリ指摘してきた.幸い,オリエンタル酵母からGST-RANKLの情報が入り,比較的安く(研究に支障が起こらない程度)手に入ったので無事リバイス実験ができた.“急がば回れである”.結局,時間がかかってしまったが,共同研究者の皆さんに励まされ,諦めなかった事がアクセプトのポイントかもしれない.(明海大学歯学部薬医学研究室・友村 美根子)