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免疫受容体アダプター蛋白DAP12は骨折治癒において炎症および軟骨形成を誘導し仮骨リモデリングを促進する

Impaired Fracture Healing Caused by Deficiency of the Immunoreceptor Adaptor Protein DAP12.
著者:Kamimura M, Mori Y, Sugahara-Tobinai A, Takai T, Itoi E.
雑誌:PLoS One. 2015 Jun 1;10(6):e0128210.
  • DAP12
  • 骨折
  • 破骨細胞

上村 雅之

論文サマリー

 骨折治癒過程は炎症期,軟骨形成期,新生骨形成期,リモデリング期の4期に分類され,破骨細胞は主に新生骨形成期からリモデリング期に関わっている.幼弱な線維性骨から成熟した層板骨へのリモデリングによって力学的強度が増加するため,骨折治癒の最終目的である強度の再獲得において破骨細胞が果たす役割は大きいが,その詳細にはいまだ不明な点が多い.NFATc1は破骨細胞の分化に必須の転写因子であり,初期誘導されたNFATc1の自己増幅にはRANKLシグナルに加えてTREM2などのイムノグロブリン様受容体および会合するアダプター蛋白を介したシグナル伝達が不可欠である.本研究で着目したDAP12はTREM2に会合し破骨細胞やマクロファージに発現するアダプター蛋白で細胞の分化および活性化に重要な役割を果たしているが、DAP12が骨折治癒に果たす役割の詳細は不明である。そこで我々は脛骨閉鎖骨折モデルを用いてDAP12欠損マウスの骨折治癒過程について解析を行った.

 DAP12欠損マウスでは対照群と比較して,X線,マイクロCTおよび構造解析評価において仮骨骨梁密度の増加がみられ,仮骨表面における皮質骨性外殻形成が抑制されていた.組織学的には軟骨仮骨および線維性骨の形成に遅延がみられ,仮骨内の成熟破骨細胞の割合が低下していた.免疫組織化学染色では炎症期の骨折部血腫においてマクロファージを示すF4/80陽性細胞の減少がみられた.Real-time PCRでは炎症期におけるTnfの発現が減少し,軟骨仮骨形成期以降におけるCol1a1,Col2a1, Col10a1の発現が遅延していた.以上の結果から,DAP12を介するシグナルが骨折部仮骨において線維性骨から層板骨へのリモデリングを誘導する役割に加え,炎症期および軟骨形成期の誘導作用をもち骨折治癒機転の開始に関わることが示唆された.DAP12は仮骨体積を減少させることなくリモデリングを促進させ,仮骨の力学的強度を増加させる役割があると考えられる.

上村 雅之

著者コメント

 生理的環境に近い骨折治癒過程を解析するため骨膜を温存した閉鎖骨折モデルを使用しましたが,閉鎖骨折では骨折型をコントロールするのが難しく,再現性の高い骨折モデルを確立するのに苦労しました.臨床的に治療に難渋することが多い骨癒合不全において,薬理学的にDAP12を介したシグナル伝達によって骨折部における炎症反応および軟骨形成の誘導が可能となれば,DAP12が骨癒合不全の治療標的となり骨折治療の成績改善につながる可能性があると期待しています.
 本研究を進めるにあたり,加齢医学研究所遺伝子導入研究分野の高井俊行先生,外科病態学講座整形外科学分野の井樋栄二先生,森優先生をはじめ,多くの先生方からご助言,ご指導を頂きました.この場を借りて御礼申し上げます.(東北大学大学院医学系研究科整形外科学・上村 雅之)