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Nrf2系の活性化は矯正学的歯の移動と後戻りを抑制する

Nrf2 Activation Attenuates Both Orthodontic Tooth Movement and Relapse.
著者:Kanzaki H, Shinohara F, Itohiya-Kasuya K, Ishikawa M, Nakamura Y.
雑誌:Journal of Dental Research. 2015 Jun;94(6):787-94.
  • 酸化ストレス
  • 破骨細胞
  • Nrf2

菅崎 弘幸

論文サマリー

 矯正学的歯の移動時には歯槽骨圧迫側において選択的に破骨細胞による骨吸収が生じること、そしてRANKLがこの制御に重要な役割を果たしていることがよく知られている。また酸化ストレス(ROS)が破骨細胞においてRANKLの細胞内シグナル伝達物質として働くと報告がある一方、ROSは脂質酸化などを惹起することから細胞にとって有害物質でもある。そのため細胞はROSに対する防御システムを兼ねそろえている。すなわち転写因子Nrf2を介した抗酸化ストレス酵素群発現増強によるROS消去である。われわれはNrf2遺伝子導入による抗酸化ストレス酵素群発現増強は骨破壊を阻止できることを報告していることから、本研究ではNrf2増強が破骨細胞分化を阻止しひいては矯正学的歯の移動および後戻りを抑制できると考えその解析を行った。

 培養実験系としてRAW264.7細胞をリコンビナントRANKLで刺激時に、Nrf2増強効果のあるSulforaphane (SFN)やEpigallocatechin gallate (EGCG)またはROS消去能のみ有するCatechinを添加し培養を行った。破骨細胞形成能、硬組織吸収能、破骨細胞マーカー遺伝子発現、細胞内ROS量などを解析した。

 動物実験系として、C57BL6雄性マウスの左右側上顎第一臼歯を口蓋側移動する系においてSFNまたはEGCGを口蓋側歯肉に局所注射して経時的な歯の移動量を精密印象にて解析した。また同様の歯の移動を21日間行った後に矯正装置を撤去して歯の後戻りを生じさせる系において片側にSFNを局所注射してSFNの後戻り抑制効果を評価した。

 培養実験系で、SFNとEGCGは強く破骨細胞分化を阻止したが、catechinの抑制効果は弱かった。SFNとEGCGはNrf2核移行を強く促進しHO-1などの抗酸化ストレス酵素群発現を増強したが、catechinにはそのような効果は見られなかった。また細胞内ROS量減弱の程度もSFNとEGCGは強かったがcatechinは弱かった。

 動物実験系で、SFNとEGCGは圧迫側歯槽骨での破骨細胞数を減少させ、有意に歯の移動を抑制した。さらにSFNは後戻りを抑制することができた。

 以上のことから、薬剤によるNrf2活性化は矯正治療における固定源強化や治療後の薬理学的保定などに応用できる可能性が示唆された。

著者コメント

 破骨細胞分化と抗酸化ストレス酵素の関係という研究テーマは2006~10年の米国留学中に着想し、2010年9月の帰国後から研究を開始しました。しかし半年後の2011年3月11日に、元所属施設の東北大学で東日本大震災に会い、研究環境が壊滅的な被害を受けさらに津波犠牲者の検死などのため研究が行えませんでした。
 様々な大学・研究機関・会社から研究環境復興の御援助をいろいろなかたちでいただき、さらにはアステラス病態代謝研究会などから研究助成金をいただき2013年には J Biol Chem、2014年にはFree Radic Biol Med、そして本年 J Dent Resと研究成果を発信できるまでになりました。
 これまでにいただきました御援助・助成に篤く御礼申し上げます。(鶴見大学歯学部歯科矯正学講座・菅崎 弘幸)