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ステロイド/プレグナンXレセプター(SXR/PXR)欠損マウスでは加齢に伴い関節軟骨の菲薄化を生じる

Pregnane x receptor knockout mice display aging-dependent wearing of articular cartilage.
著者:Azuma K, Casey SC, Urano T, Horie-Inoue K, Ouchi Y, Blumberg B, Inoue S.
雑誌:PLoS One. 2015 Mar 6;10(3):e0119177
  • 変形性関節症
  • SXR
  • Fam20a

東 浩太郎

論文サマリー

 変形性関節症は、生活の質の低下や要介護の原因となり、高齢社会における重要な疾患である。近年の疫学研究によると、血中のビタミンK濃度の低下が、関節の加齢性疾患である変形性関節症と関係があることが示唆されている。筆者らの研究グループはビタミンKの作用として、従来知られているγカルボキシラーゼの共役因子としての作用の他に、核内受容体であるSXR(Steroid and Xenobiotic Receptor)を介するメカニズムが存在することを示してきた。そこで、本論文ではSXRシグナルの関節への影響を評価するために、SXRのマウスの相同遺伝子であるPXR (Pregnane X Receptor)を欠損するマウスの関節の解析を行った。

 8ヶ月齢、13ヶ月齢のPXRノックアウトマウスの膝関節を観察したところ、野生型と比べ有意な関節軟骨幅の狭小化、関節軟骨面のずれを認め、月齢に依存した変形性関節症様の表現型を呈した。このことより、SXR/PXRシグナルは、関節の加齢性変化に対し保護的に作用する可能性が示唆された。軟骨細胞には少量ではあるがSXR/PXRが発現していることを筆者らのグループは過去に報告しており、今回観察された軟骨の表現型は軟骨細胞におけるSXR/PXRシグナルを介して生じたのではないかと考えた。そこで軟骨前駆細胞株ATDC5にSXRを過剰発現した細胞をSXRリガンドであるリファンピシンおよびビタミンKにて刺激し、マイクロアレイにて応答遺伝子を解析したところ、新規応答遺伝子として、Fam20a(family with sequence similarity 20a)を同定した。この分子は、分泌蛋白であり、歯のエナメル化や動脈の石灰化の制御機能が知られていたが、軟骨における機能は未知であった。初代培養軟骨細胞を用いてFam20aの発現をノックダウンすることにより機能解析を行ったところ、軟骨基質の形成にかかわることが推測された。

 筆者らは、2010年にPXRノックアウトマウスが骨量減少を呈することを報告しており、今回の報告と合わせて、SXR/PXRシグナルが骨粗鬆症・変形性関節症という2つの重要な加齢に伴う運動器に関与している可能性を示すことができた。また、これらの結果は、臨床試験や疫学試験で示されているビタミンKの骨関節保護作用を説明するメカニズムの一つになり得ると考えられる。

東 浩太郎
東 浩太郎

筆頭著者コメント

 本研究では、SXR/PXRシグナルと軟骨代謝の関わりの一端を明らかにしましたが、リガンドであるビタミンKの関節保護効果は、疫学試験で示されているものの、3年の介入試験では否定的な結果が報告されています。より長期的な予防効果が今後示され、本研究の成果が予防・治療に役立つことを願っています。また、本研究では、SXRをクローニングし、ノックアウトマウスを維持されているカリフォルニア大学アーバイン校のBruce Blumberg先生と共同研究を行いました。このご縁で、現在、私自身がBlumberg研究室に留学させていただいており、そのため本論文のリバイス実験を米国にて私自身が行うことができたのは幸運でした。本研究は、日米両国にまたがる多くの方々の協力により成し遂げられたものであり、改めて感謝致します。(東京大学大学院加齢医学講座・東 浩太郎)