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IL-6/STAT3シグナルは間葉系幹細胞の軟骨細胞分化に関与する

Contribution of the Interleukin-6/STAT-3 Signaling Pathway to Chondrogenic Differentiation of Human Mesenchymal Stem Cells
著者:Kondo M, Yamaoka K, Sakata K, Sonomoto K, Lin L, Nakano K, Tanaka Y.
雑誌:Arthritis Rheumatol. 2015 Jan 20. doi: 10.1002/art.39036.
  • 間葉系幹細胞
  • 軟骨細胞分化
  • IL-6/STAT3

近藤 真弘

論文サマリー

間葉系幹細胞(MSC)は,軟骨細胞に分化可能な多能性幹細胞である.MSC様細胞は軟骨にも存在することから,軟骨の恒常性維持に関与すると考えられる.IL-6はpro-inflammatoryな作用が良く知られる一方で,標的となる細胞,臓器あるいは周囲の環境に応じて,多彩な生理機能を発揮するサイトカインである.MSCは定常的かつ大量にIL-6を産生するが,その生理的意義は不明である.今回,ヒト骨髄由来MSCをTGF-β3含有培地でペレット培養する軟骨細胞分化誘導系を用いて,MSCの軟骨細胞分化におけるIL-6シグナルの関与を解析した.まず,無刺激単層培養MSCが産生する液性因子をantibody-based protein array (80因子)で調べたところ,IL-6は最も大量に産生される因子であった.ペレット培養による軟骨細胞分化誘導過程の培養上清中においても,分化誘導3日目をピークに高濃度のIL-6が検出された.IL-6受容体(IL-6Rα)の発現は,未分化MSCでは低レベルだが,軟骨細胞分化誘導4日目から発現が増加し,7日目をピークに21日目まで高い発現レベルが維持された.下流のシグナル分子であるSTAT3のリン酸化レベルは,IL-6Rαと同様のパターンで経時変動した.軟骨細胞分化誘導培地中にIL-6および可溶型IL-6R (sIL-6R)を共添加すると,21日目の軟骨基質の蓄積と軟骨マーカー遺伝子(Col2a1/ Aggrecan /Col10a1)の発現が亢進した.さらに,軟骨細胞分化のマスター転写因子SOX9の発現とリン酸化は,分化誘導7日目に増加したが,IL-6/sIL-6Rを共添加すると,サイトカイン非添加と比較して有意にリン酸化レベルが増加した.このことから,IL-6/sIL-6Rの軟骨細胞分化促進メカニズムの一つとして,SOX9リン酸化亢進による転写活性化が考えられた.逆に,IL-6R下流分子であるSTAT3をノックダウンすると,軟骨基質と軟骨マーカー遺伝子発現は阻害された.最後に,外側型変形性関節症(OA)患者の内側正常軟骨において,IL-6とCD166/Nestin(MSCマーカー)は軟骨表層領域で共局在した.以上より,MSCの軟骨細胞分化過程において,IL-6/STAT3シグナルの活性化は,軟骨細胞分化を正に制御することが示唆された.また,関節軟骨のMSCの近傍にはIL-6が存在することから,IL-6 はMSCの軟骨細胞分化を促進させることにより,軟骨組織の恒常性維持・自己修復に寄与する可能性が考えられた.

近藤 真弘

著者コメント

私は,田辺三菱製薬薬理第一研究所より産業医科大学に派遣され,間葉系幹細胞の軟骨細胞分化におけるサイトカインの影響に着目して研究を開始しました.当初は,結果の出ない時期がありましたが,田中良哉先生をはじめとするラボメンバーのサポートにより,着実にデータを積み上げることができました.今後は,軟骨破壊性疾患に対するMSCを用いた細胞治療の効率的な方法の開発や,病態解明を通して新規治療薬を創製するという究極の目的に向かって,研究を発展させていきたいと考えています.(産業医科大学第1内科・近藤 真弘)