
新規IκBキナーゼβ阻害剤、IMD-0560は口腔扁平上皮癌による顎骨浸潤を抑制する
著者: | Tada Y, Kokabu S, Sugiyama G, Nakatomi C, Aoki K, Fukushima H, Osawa K, Sugamori Y, Ohya K, Okamoto M, Fujikawa T, Itai A, Matsuo K, Watanabe S, Jimi E. |
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雑誌: | Oncotarget 2014 5(23): 12317-12330. |
- NF-κB
- IMD-0560
- 顎骨浸潤
論文サマリー
口腔扁平上皮癌(OSCC)は口腔内や頭頸部腫瘍の中で最も一般的な悪性腫瘍であり、特に歯肉に発症したOSCCは顎骨に浸潤することが多く、約70%が原発巣で再発し、死に至るなど予後不良となることが多い。転写因子NF-κBはOSCCを含む様々ながんで活性化されており、浸潤能や生存率の増加、抗がん剤への抵抗性や血管新生の促進などのがんの悪性度の獲得に貢献している。またNF-κBの発現上昇がOSCCの浸潤や転移と相関している他に破骨細胞分化にもNF-κBが重要な役割を担っていることから、NF-κBはOSCCによる顎骨浸潤の標的分子となる。IMD-0560はアスピリンがIKKβと結合する部位を模倣して開発された新規IKKβ阻害剤であり、このプロドラッグは関節リウマチの臨床試験に用いられている。本研究ではIMD-0560がOSCCによる顎骨浸潤の治療薬としての臨床応用できる可能性を評価した。IMD-0560は口腔扁平上皮癌細胞株やマウス扁平上皮癌細胞株SCCVII細胞のNF-κBの核移行とIκBαの分解を抑制した。また、IMD-0560は口腔扁平上皮癌細胞のマトリクスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)の産生を抑制することで細胞外基質への浸潤を抑制した。さらにIMD-0560は顎骨周囲の骨芽細胞およびSCCVII細胞によるReceptor Activator of NF-κB Ligand(RANKL)の発現を抑制することで破骨細胞分化を抑制し、SCCVII細胞の細胞死を誘導する他にSCCVII細胞の増殖とMMP-9産生を抑制することで、SCCVII細胞による頬骨弓と下顎骨の骨破壊を抑制した。一方、IMD-0560は接種付近の舌基底細胞および傍基底細胞の増殖を抑制しなかった。これらの実験結果より、IMD-0560はOSCC細胞による顎骨浸潤の新たな治療薬となる可能性が示唆された。(自見 英治郎)
著者コメント
本研究は、九州歯科大学歯科侵襲制御学分野(歯科麻酔科)の大学院生として自見英治郎先生の分子情報生化学分野で取り組ませていただいた仕事です。骨についてもNF-κBについてもほとんど予備知識のない状態でやってきた私に対し、辛抱強く実験手技から教えていただいた研究室の皆様には感謝の念が絶えません。実験が上手くコントロールできず原因を探っている時期こそ、試行錯誤を経て仮説を実証していくという、研究の基本を学ぶ大きな機会だったと思っています。自見研究室での大きなテーマの一端に関わる事ができたのは、手技を学ぶだけでなく、視野を大きくし、研究に取り組む真摯さを教えていただいたと思います。お世話になりました全ての先生方に対し、厚く御礼申し上げます。(九州歯科大学・多田 幸代)