日本骨代謝学会

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ステロイド性骨粗鬆症および糖尿病の病態機序におけるPlasminogen Activator Inhibitor-1の役割

Role of Plasminogen Activator inhibitor-1 in Glucocorticoid-Induced Diabetes and Osteopenia in Mice
著者:Yukinori Tamura, Naoyuki Kawao, Masato Yano, Kiyotaka Okada, Katsumi Okumoto, Yasutaka Chiba, Osamu Matsuo, Hiroshi Kaji
雑誌:Diabetes 2015 Jun; 64(6):2194-206
  • グルココルチコイド
  • 骨粗鬆症
  • 糖尿病

田村 行識

論文サマリー

グルココルチコイド(GC)は、抗炎症作用を有しており、様々な疾患の治療に使用されているが、骨粗鬆症、糖尿病および筋委縮を引き起こすことが臨床的に問題となっている。しかし、その詳細な機序は不明な点が多く、また、その副作用を媒介する液性因子についての検討はほとんどされていない。線溶系阻害因子Plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)は、糖尿病病態およびGC投与によって増加するアディポサイトカインであることが知られている。また、閉経後や糖尿病性の骨粗鬆症の病態に関与することが示されてきた。そこで本研究では、GC投与に伴う骨粗鬆症、糖代謝異常、筋委縮におけるPAI-1の役割について検討した。野生型およびPAI-1欠損マウスの皮下にコルチコステロン(CS)(1.5 mg)を4週間継続投与した。骨密度は定量CTにより評価した。CS投与は野生型マウスにおけるPAI-1の血中濃度および脂肪組織と筋組織のmRNA量を増加させた。CS投与により野生型マウスの脛骨における骨密度低下と骨芽細胞数の著明な減少がみられたが、PAI-1欠損マウスではこれらが改善した。活性型PAI-1処理はマウス骨芽細胞のアポトーシスを増加させ、PAI-1欠損によりCSによる骨組織でのアポトーシス増加を阻害した。また、ブドウ糖およびインスリン負荷試験の結果、PAI-1欠損によって、CS投与に伴う耐糖能異常およびインスリン抵抗性が改善された。活性型PAI-1処理が、C2C12細胞(筋細胞)や3T3-L1細胞(脂肪細胞)ではなく、HepG2細胞(肝細胞)におけるインスリンシグナルと糖の取り込みを直接阻害したことから、PAI-1が肝細胞への直接作用を介してCSによる糖代謝異常に関与することが示唆された。さらに、PAI-1欠損によって、CS投与に伴うⅡ型筋線維(速筋)優位の腓腹筋の筋量、筋線維サイズおよび筋分化マーカー遺伝子発現量の減少が改善されたが、CSの作用はⅠ型筋線維(遅筋)優位のヒラメ筋では観察されなかった。本研究より、GC投与に伴う骨粗鬆症、糖代謝異常および筋萎縮にPAI-1が関与することが明らかとなった。GCによる骨粗鬆症への関与の機序として、血中のPAI-1が骨芽細胞のアポトーシス誘導を介することが示唆された。本研究より、PAI-1がGC投与に伴う副作用の診断マーカーや治療標的となる可能性が期待される。

田村 行識

著者コメント

私は大学院生時代より、糖尿病とその合併症に興味を持ち基礎研究を行なってきました。4年前に梶博史教授と出会い、近畿大学医学部再生機能医学講座のスタッフとして骨代謝研究の分野に足を踏み入れました。それまでと違う研究分野に最初は苦戦しましたが、梶教授に導かれ、骨代謝・糖代謝を含む様々な代謝異常を複合的に研究する楽しさにはまっていきました。今回、ステロイド投与による骨代謝・糖代謝異常に関与する共通因子を発見し報告させて頂きましたが、今後も個人に重積する代謝異常の相互関連性の解明とそれらの相乗的な治療法に結びつく発見を目指して研究を行なっていきたいと思います。最後に、本研究にご協力頂いた多くの先生方に深く感謝申し上げます。(近畿大学医学部再生機能医学講座・田村 行識)