日本骨代謝学会

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エピジェネティク制御因子Dnmt3aは、SAMの代謝経路と共役することで、破骨細胞分化を制御する

DNA methyltransferase 3a regulates osteoclast differentiation by coupling to an S-adenosylmethionine-producing metabolic pathway.
著者:Nishikawa K, Iwamoto Y, Kobayashi Y, Katsuoka F, Kawaguchi S, Tsujita T, Nakamura T, Kato S, Yamamoto M, Takayanagi H, Ishii M
雑誌:Nature Medicine 21, 281-287 (2015)
  • 破骨細胞
  • エピジェネティク
  • 細胞内代謝

西川 恵三

論文サマリー

 本研究では、破骨細胞分化にかかわるエピジェネティクス制御の解明に取り組みました。まず最初に、破骨細胞の分化過程で取得したトランスクリプトームデータをもとに、破骨細胞の分化に伴って発現が誘導されるエピジェネティクス制御因子を探索したところ、DNA上のシトシン残基にメチル基を転移する酵素Dnmt3aを同定しました。Dnmt3aは、これまで、胚発生や神経細胞の分化における役割が知られていましたが、骨代謝にかかわる機能は明らかにされていませんでした。

 コンディショナルノックアウトの手法を用いて、破骨細胞特異的にDnmt3a遺伝子を破壊したマウスを調べたところ、破骨細胞の数と骨吸収が減少し、骨量が著しく増加することが分かりました。これは、Dnmt3aの働きが失われたことで破骨細胞の分化促進が行われないためだと考えられます。

 詳細な解析を進めた結果、破骨細胞分化におけるDnmt3aの役割が明らかとなりました。すなわち、Dnmt3aは、(1)自身がもつDNAメチル基転移の酵素活性を介して、DNAにメチル基を転移することで遺伝子の発現制御にかかわること、(2)中でも、破骨細胞分化の抑制にかかわる転写因子Irf8の発現を抑制することで、破骨細胞の分化促進を担っていることを明らかにしました。一方で、破骨細胞の細胞内代謝様式が、好気的代謝に依存している点に注目し、解析を進めた結果、好気的代謝と連動してS-アデノシルメチオニン(SAM)の産生が上昇することを突き止めました。さらに、メチル基供与体として働くSAMと、これを補因子として利用するDnmt3aの双方が上昇する仕組みが、破骨細胞のDNAメチル化修飾を推進する正体であることも明らかにしました。

 卵巣を摘出する手術によって骨粗しょう症を発症させた病態モデルマウスでは、骨吸収が亢進し、骨量の減少が認められます。一方で、破骨細胞特異的にDnmt3a遺伝子を破壊したマウスでは、骨粗しょう症の病態発症に抵抗性を示すことが明らかとなりました。この結果から、Dnmt3aが骨粗しょう症の治療の創薬標的となることが予想されます。そこで、Dnmt3aの酵素活性に対して、阻害活性をもつ紅茶成分テアフラビンを用いた治療実験に取り組みました。その結果、破骨細胞特異的にDnmt3a遺伝子を破壊したマウスと同様に、骨粗しょう症の病態発症に抵抗性を示すことが明らかとなりました。以上の解析の結果から、Dnmt3aは、骨粗しょう症の新たな治療薬の標的となること、そして、テアフラビンが、それを実現する有用な候補化合物であることが証明されました。

著者コメント

筆者は、大学院生時代に、山本雅之教授(東北大学)に師事して以来、転写研究のおもしろさに魅了され、ポスドク時代に、高柳広教授(東京大学)に御指導頂いたのを機に、骨代謝の転写研究に従事して、10年を向かえつつあります。真核生物の転写研究の歴史のなかでの大発見は、Roeder博士によるRNAポリメラーゼの単離、Tijan、Maniatis、Kornberg博士などによる基本転写因子や転写メディエターの同定を端緒に、実に枚挙に暇がありません。そのなかでも、筆者が大学院生の時に発表された、Allis博士によるヒストンコードの概念は、筆者がエピジェネティクスに興味を持つ大きなきかっけとなりました。未だ若輩の身ではありますが、今後の転写研究の発展に、微力ながら貢献できるよう研究に励んでいきたいと考えています。そのような日々の研究の一歩一歩に多大なるご支援頂いております石井優教授と共同研究者の先生方に、改めて感謝の意を申し上げます。(大阪大学医学系研究科生命機能研究科免疫細胞生物学・西川 恵三)