
Porphyromonas gingivalis LPS刺激によりTHP-1細胞のThrombospondin-1産生は促進される
著者: | Gokyu M, Kobayashi H, Nanbara H, Sudo T, Ikeda Y, Suda T, Izumi Y. |
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雑誌: | PLoS One. 2014 Dec 12;9(12):e115107. |
- FGF23
- 骨細胞
- 炎症性サイトカイン
論文サマリー
歯周炎は歯の喪失における第一の原因とされており、日本では50代の約半数が罹患している慢性炎症性疾患である。口腔内の歯周炎局所では、細菌性刺激により産生された様々な炎症性メディエーターによって炎症反応が進む。さらに単球やリンパ球などによる慢性的な免疫応答が続き、歯周支持組織破壊や歯槽骨吸収が引き起こされ、周囲の支持を失った歯は最後には抜けてしまう。歯周炎を引き起こす歯周病原細菌の中でも、Porphyromonas gingivalisは主要な細菌の一つであり、その病原性が注目されている。本研究は、P. gingivalis LPSが単球におよぼす影響を調べる上で、DNA micro arrayによる網羅的な探索を行い、発現上昇の認められたThrombospondin-1(TSP-1)に着目した。
TSP-1は多機能な細胞外マトリックスタンパクであり、TGF-β活性化や抗血管新生などの作用がある。また炎症過程において発現が上昇し、炎症部位における免疫応答の調節を担うとされる。過去にはリウマチ性関節炎、糖尿病、破骨細胞形成に関与することが報告されている。しかし歯周炎におけるTSP-1発現については知られていなかったため、本研究によって明らかにすることとした。 まず歯周外科手術時に得られた臨床サンプルを用いて、発現解析を行った。その結果、重度の炎症性歯周炎歯肉では、健康な歯肉組織や軽度炎症の組織に比べ、有意にTSP-1 mRNA発現が増加していることが判明した。次にヒト単球系細胞THP-1細胞に対しP. gingivalis LPSで刺激し、Real-time RT-PCRとELISAによる解析を行った。その結果、TSP-1発現はToll-like receptor2に依存し、NF-κBシグナルを活性化することで発現が上昇すること、さらにIL-4などのサイトカインとの共刺激、特にIL-17F刺激により相乗的な発現亢進を促していることが明らかとなった。
本研究により、歯周炎局所においてTSP-1の高い発現が認められ、P. gingivalis刺激によりヒト単球系細胞からの発現が亢進したことから、TSP-1が何らかの形で歯周炎の進行および慢性化に関与している可能性が示唆された。今後はTSP-1発現が歯周組織構成細胞や骨系の細胞に与える影響を調べ、さらにその機能解析を行う予定である。
著者コメント
歯周炎における免疫応答に関して興味を持ち、歯周病学分野に入局後、本研究を開始しました。歯周炎は骨破壊が本態の疾患ですが、発症から骨吸収に至るメカニズムは不明な点が多く、歯周炎進行の機序解明が重要であると考えます。私は研究に関しての知識や技術が素人であったため、細胞実験について一から教えていただきながらの研究でしたが、地道に実験を繰り返し、少しずつ結果につなげることができました。今回論文を発表できたことに慢心せず、歯周病学の発展に少しでも貢献できるような研究を続けていきたいと考えています。
最後になりましたが、共著者の皆様をはじめ、多くの方々のご支援に心より感謝を申し上げます。(東京医科歯科大学・御給 美沙)