日本骨代謝学会

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基礎系 2018年座談会
骨・運動器領域の基礎研究の国内外の動向

司会
西村 理行 先生(大阪大学大学院歯学研究科生化学教室 教授)

座談会メンバー
石井 優 先生(大阪大学大学院医学系研究科免疫細胞生物学 教授)
齋藤 琢 先生(東京大学医学部附属病院整形外科 准教授)
道上 敏美 先生(大阪母子医療センター研究所環境影響部門 部長)

齋藤先生、西村先生、道上先生、石井先生
(左から)齋藤先生、西村先生、道上先生、石井先生

はじめに

西村本日は骨代謝研究の第一線で活躍されている石井優先生、齋藤琢先生、そして道上敏美先生にお集まりいただき、ご自身の専門的な研究内容はもちろんのこと、国内外の研究の状況などについて、活発にご議論いただきたいと思っております。

西村 理行先生
西村 理行先生

骨イメージングでみえてきた事実

西村まず石井先生、骨イメージングを中心にお話いただけますか。

石井 私は、10年以上前に骨の中を観ることを始めました。さまざまなシステムを組んで骨の中を可視化して、解像度を上げていき、破骨細胞や骨芽細胞などがいかに標識できるかを追及してきました。そして、2光子励起顕微鏡を活用することで、骨髄腔を生きたままの状態で観察することに成功しました。この10年間で技術の進歩などもあり、細胞の動き、細胞間コミュニケーション、骨吸収機能など、多くのことが観えるようになりました。
ただ、観るという現象論に終わらずに、その現象がどういった分子メカニズムで起こっているのかを追求していかなければいけません。そのためには解析ツールを作製したり、細胞へのシグナルや細胞分化などの機能変化を可視化していくシステムを構築したりする必要があります。骨イメージングによる情報量は膨大で、さまざまなものを観ることができますが、「見えている」と「観る」は違います。システム生物学などと併せて定量的に画像を解析して、我々が見えている以上のものを観ることが重要であり、インフォマティクスの融合が重要だと思います。また、基礎研究の場のみでなく、ヒトの骨においても中を観ることができるかということも重要となります。

西村今後、ビッグデータを融合させることも必要ですね。

石井ビッグデータを融合させることで、骨イメージングの領域は大きく進展する可能性があると思います。

石井 優先生
石井 優先生

西村そういったなか、日本でもさまざまなプローブが開発されていると思いますが、現状はいかがでしょうか。

石井日本は伝統的に光学の研究が強く、世界4大顕微鏡メーカーのうち2社が日本にあります。また化学研究も非常に強く、さまざまな機能モジュールを組み込んだ化学蛍光プローブが次々に登場しており、可視化のためのアイデアは、その多くが実現できるようになっています。私どもの研究室では、光学や化学、さらにはインフォマティクスの各分野の研究者とオープンにディスカッションする場を常に設けており、そういったチームが強みになっているのではないかと思います。日本の骨イメージング技術は現在も世界トップのレベルだと自負していますが、それを維持するためにもチームでの取り組みをより強化していきたいと思います。

骨イメージングへの期待

西村道上先生、齋藤先生の専門領域において、骨イメージングの応用はどのように考えられていますか。

道上我々がこれまで用いていた手法では知り得なかったことが骨イメージングで明らかになってきており、興味深いです。細胞の運命をin vivoでダイナミックに観察できるようになることを期待しています。例えば骨芽細胞から骨細胞への移行のプロセスを観るために、もう少し長時間に渡って観察できるイメージングシステムができれば理想的です。また、骨細胞周囲の細胞外液の動きを、例えばスクレロスチンなどをラベルして機能的に観察するシステムが構築されれば、研究が進むのではないかと思います。

石井イメージングの長時間化は重要ですね。現在、観察部に窓をつけて長期に亘って観察したり、ファイバースコープのようなものを埋め込んでモニターしたりするといったことを試みています。

西村齋藤先生、いかがですか。

齋藤軟骨はほとんど動きがなく、特に成人の関節など体表から深いところに存在するため、現在の技術でもライブではなかなかターゲットにしにくいのではないかと思います。最近の関節研究は、滑膜などに存在する幹細胞がいかに関節を維持しているかといった観点に大きくシフトしてきていますので、滑膜がその後何をするのかが明らかにできればと思います。しかし、滑膜は動きが激しく、時間軸がマウスでさえ月単位なので、どう解決していくのか、今後の技術に期待したいと思っています。

石井繰り返しになりますが、長時間化は1つの重要なポイントですね。技術的な向上も、チームで取り組んでいければと思いますが、骨イメージングについてはハードルが高く見えるようですので、何とか敷居を下げられないかと思っています。例えば2光子励起顕微鏡はほとんどの大学に導入されていますし、このツールをいかに活用するかというディスカッションができれば、さまざまな研究テーマが出てくるのではないかと考えています。日本で骨イメージングに取り組む施設がもっと増えて、少なくとも全国に5ヵ所くらいになればと願っています。
骨イメージング研究を行って感じることは、その方法論の開発メソッド以上の意味があるということです。どういうことかと申しますと、少し前までのライフサイエンス研究は、分子を発見してノックアウトして出てきたフェノタイプによって後から理論付けるという、いわゆる要素還元論のスタイルが多かったですが、我々は自然現象をまず虚心坦懐に観察して、そこから出てくる疑問を抽出して解決するスタイルをとっています。これまで要素還元論だけでひた走ってきたので、そうではない研究スタイルを今後もっと考えるべきだと思います。もちろん分子ですべてが説明できる部分も沢山ありますが、実際には違うこともありますので、ライフサイエンスの研究スタイルそのものが変わっていくトリガーになればと思います。

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