日本骨代謝学会

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基礎系 2017年座談会
骨・運動器領域の基礎研究の国内外の動向

司会
小守壽文 先生(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 細胞生物学分野 教授)

座談会メンバー
池川志郎 先生(理化学研究所 統合生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム チームリーダー)
小林泰浩 先生(松本歯科大学 総合歯科医学研究所 硬組織機能解析学 教授)
宿南知佐 先生(広島大学大学院医歯薬保健学研究科 医歯薬学専攻 生体分子機能学 教授)

小林先生、小守先生、宿南先生、池川先生
(左から)小林先生、小守先生、宿南先生、池川先生

はじめに

小守本日は,骨代謝研究の第一線でご活躍の先生方にお集まりいただき,「骨・運動器領域の基礎研究の国内外の動向」と題しまして座談会を開催いたします。それぞれの研究領域に関するお話をうかがってまいりますが,宿南知佐先生には「腱・靭帯,腱・靭帯付着部の形成機構」について,小林泰浩先生には「Wntシグナルによる骨代謝制御」について,そして池川志郎先生には「骨関節の遺伝病」について,最新のトピックスを中心にご紹介いただきたいと思います。

小守壽文先生
小守壽文先生

腱・靭帯,腱・靭帯付着部の形成機構について

小守それでは,はじめに宿南先生から,腱・靭帯の形成機構についてお願いいたします。

宿南 腱・靱帯組織を特徴づける分子マーカーとして,転写因子Scx(scleraxis)1),Ⅱ型膜貫通タンパク質Tnmd(tenomodulin)2),ホメオボックス遺伝子Mkx(mohawk homeobox)3),Egr1(early growth response1)/Egr2(early growth response2)遺伝子が有用であることが報告されています。しかしながら,これらの分子マーカーは腱・靭帯の両方に発現しており,腱のみ,あるいは靭帯のみに特異的に発現する分子マーカーはいまだ同定されていません。

小林Scxは,腱・靭帯前駆細胞と分化細胞の両方で発現しているのですか。

宿南はい。ですから,in vitroの誘導系で作成された細胞がどの分化ステージにあるかは,より分化成熟した段階で発現するTnmdなど他のマーカーの発現を見ながら判断する必要があります。

池川Scxの上流で機能する転写因子が存在するということはないのですか。

宿南今のところ,そういった報告はありません。Scxに関しては,promoterとその上流4kb,2つのエクソン,下流5kbを含む11 kbぐらいの領域の中に腱・靱帯特異的発現制御を担うエンハンサーが存在することがわかっています。これまでに,軟骨特異的に発現するⅡ型コラーゲンなどのエンハンサーで転写因子SRY(sex determining region Y)-box 9(Sox9)に至るアプローチが示されていることから,Scxでも同様な方向で研究を進めています。ただ,非常に短い領域に特異性を担う部分が収束してこないことから,Sox9に至るようなアプローチによってScxの上流で機能する転写因子を見い出すのは現状では難しいのではないかと考えています。

小守例えば,骨芽細胞の分化に必須の転写因子であるRunx2のノックアウトマウスは骨形成がみられないことが知られていますが,腱が完全に形成されないノックアウト動物は確立されているのですか。

宿南Tgfb2/Tgfb3ダブルノックアウトマウスやTgfbr2のノックアウトマウスではほとんどの腱が形成されなかったりしますが4),TGF-β シグナリングは腱に特異的なものではありません。したがって,腱が全く形成されないという腱特異的転写因子のノックアウトマウスは確立されていないことになります。腱・靭帯形成を制御する転写因子として同定されたScx,MkxまたはEGR1/EGR2のノックアウトマウス3, 5, 6)においても,観察されるのは,腱の消失ではなく低形成です。

宿南知佐先生
宿南知佐先生

小守続いて,腱・靭帯付着部の形成機構についてお話しいただけますか。

宿南発生過程において,腱と靭帯は独立した原基として形成されます。腱・靭帯付着部(Enthesis)は,最初,硝子軟骨と腱・靭帯から形成されますが,その形成に寄与する転写因子としてScxおよびSox9があります7)。腱・靭帯付着部の構造は,線維軟骨細胞層の有無によって線維軟骨性付着部(Fibrocartilaginous enthesis)と線維性付着部(Fibrous enthesis)の2種類に分類されます。ただ,線維軟骨性付着部でも,生後すぐには線維軟骨は存在せず,成長過程でメカニカルストレスを受けて線維軟骨細胞層が構築され,腱,非石灰化線維軟骨,石灰化線維軟骨および骨という4層構造が出来上がっていきます。
最近では,生後,線維軟骨が形成される過程において,ヘッジホッグシグナル伝達に関与する転写因子の一つであるGli1やその陽性細胞の発現が重要である可能性が示唆されています8)。インディアンヘッジホッグや副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)はメカノレスポンスにかかわる分子といわれていますので,Enthesis形成過程においても重要な役割を果たしていると考えられます。また,われわれはScx+/Sox9+前駆細胞がEnthesisの細胞層に発現していることを見出しており,今後はGli1あるいはヘッジホッグに反応する細胞群とどういう関係にあるかを調べていく必要があると考えています。ただ,恐らくヘッジホッグシグナルに反応する細胞の方がより分化しているのでないかと思っています。

池川腱・靭帯の形成に寄与する転写因子は,組織の維持・再生にも関係しているのでしょうか。

宿南Scxは,腱・靭帯が成熟すると発現量が減少していきますので,生後の組織の維持にはそれほど寄与していないと思われますが,損傷して修復する過程ではScx陽性細胞が出てくるので,再生には関係しているのではないかと思います9)。一方,腱の成長過程において重要な役割を果たす転写因子Mkxは,生後もずっと発現しています。したがって,胚発生過程におけるマーカーと成熟した組織に発現するマーカーは別に考えていく必要があると思います。

池川腱・靭帯付着部は,メカニカルストレスをダイレクトに受けることで障害が発生しやすい部位です。腱・靭帯骨付着部における障害,いわゆるエンテソパチーのなかには後縦靱帯骨化症(OPLL)など病態解明が進んでいない疾患がありますので,組織の維持・再生機構が明らかになって,病態解明に有用なモデルを作製することができれば大変興味深いです。

宿南形成機序については明らかになりつつありますので,今後は生まれてから組織が完成していく過程や再生のメカニズムに関する研究が進んでいくのではないかと思っています。

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