骨ルポ
ANZBMS 2024 レポート
田所 慶誠(神戸大学大学院医学研究科外科系講座口腔外科学分野)
紹介演題 [1]
A nanocomposite hydrogel for bone regeneration and antimicrobial efficacy - A dental perspective
キーワード
骨再生、ナノゲル
研究グループ
Dawn E Coates, Dina Abdelmoneim, KC Li, Warwick J Duncan
- Sir John Walsh Research Institute, Faculty of Dentistry, University of Otago, Dunedin, New Zealand
サマリー&コメント
歯周炎や骨折、外傷などによって生じた骨欠損部を埋めるべく、これまで様々な骨再生材料が考案されてきた。さらなる治療成績の向上を求めて、現在も同材料の研究開発が続けられている。本研究グループは、実際の使用部位や環境を考慮した、抗菌作用のある新たなマテリアル(GelMA/AgNPs)を創出した。水溶性光重合開始剤、ルテニウム/過硫酸ナトリウム(Ru/SPS)、12959でそれぞれ架橋されたGelMA、HyStem®-CおよびPVAに銀ナノ粒子(AgNPs)をカプセル化し、ナノ粒子の保持性を評価したところ、GelMA+Ru/SPSでのみAgNPsは安定していた。続いて、ヒト歯肉線維芽細胞を500万細胞/mLでハイドロゲルに播種し、代謝活性と生死染色を定量すると、GelMA/AgNPsの細胞毒性は低いことがわかった。またantimicrobial assay の結果、GelMA/AgNPs は5μg/mL濃度以上でStaphylococcus aureus およびEscherichia coliに対して抗菌作用を示した。骨再生の評価には、ウサギの頭蓋骨に6mmの骨切り欠損を作成したモデルを使用した。骨欠損部をBioOss®、GelMA、GelMA/AgNPsでそれぞれ処理した群と処理しなかった群の計4群に分け、術後4週間と16週間後にCT撮影および樹脂包埋による定量化を行った。その結果、GelMA/AgNPsで処理した部位では、有害な炎症反応を示さず、新生骨再生はBioOss®と同様であった。以上から、GelMA/AgNPsは、新たな骨再生マテリアルとして臨床導入されることが期待される。
紹介演題 [2]
Utility of bone turnover markers P1NP, CTX and NTX to reduce the risk of osteonecrosis of the jaw in patients on antiresorptive therapy undergoing dentoalveolar surgery.
キーワード
薬剤関連顎骨壊死、骨代謝マーカー
研究グループ
Charles A Inderjeeth1, 2, 3, Jessica Devlin3,, Diren Che Inderjeeth1,, Dieter Gebauer3,
- Geriatric Acute And Rehabilitation Medicine, Sir Charles Gairdner Osborne Park Health Care Group, Perth, Western Australia, Australia
- Faculty of Medicine, Curtin Medical School, Perth, Western Australia, Australia
- Faculty of Medicine and Dentistry, University of Western Australia, Perth, Western Australia, Australia
サマリー&コメント
薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)とは、骨吸収抑制薬の重篤な副作用であり、抜歯などの外科処置を契機として発症する難治性疾患である。骨粗鬆症患者では、CTXやP1NP、NTXなどの骨代謝マーカー(BTM)が指標として用いられているが、MRONJとBTMの関連についてはよくわかっていない。本研究グループは、MRONJリスクにおけるBTMと年齢を評価した。外科処置のために口腔外科受診したデノスマブ投与中の患者56名(平均年齢75.5歳)を対象とし、血清CTX、P1NP、尿中NTXを休薬前(初回検査)、手術時、デノスマブ再開前に測定した。その結果、BTM間には強い正の相関が認められ、相関係数は0.846(CTXとP1NP)、0.837(CTXとNTX)、0.799(P1NPとNTX)であった。線形回帰モデルでは、NTXとP1NPがCTX値の良好な予測因子であることが明らかになった。休薬期間は、CTXに有意な影響を与えており(p<0.001)、休薬日数が増えるごとにCTXは上昇した。また、年齢によるBTMへの有意な影響はみられなかった。以上より、外科処置を必要とするデノスマブ治療中の患者において、CTX、P1NP、NTXの間に強い相関があり、低CTXとNTXがMRONJのバイオマーカーとなる可能性が示唆された。また、休薬期間が長いほどBTM値は有意に改善した。これらの知見は、BTMとデノスマブ投与中の患者における外科処置のタイミングについて貴重な洞察を与える。MRONJでは、有用なバイオマーカーが未だ見つかっていないことから、本研究はユニークなものと考えられる。一方で、薬剤投与期間や施行した外科処置など、不明な点が多々残されており、骨代謝マーカーのカットオフ値が求められなかったことから、今後さらなる研究が求められる。
会場で親しくなった日本の研究者と記念撮影。
学会会場