日本骨代謝学会

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ANZBMS 2024 レポート
根岸 宗一郎(昭和大学顎顔面口腔外科学講座)

この度、第42回日本骨代謝学会学術集会にてANSBMS 2024 Travel Awardを受賞させていただき、また大変光栄なことに、ANZBMS Roger Melick Young Investigator Award Symposiumにて口演の機会をいただきました。今回、国際学会での初めてのoral presentationを行うにあたって、緊張と不安でいっぱいでしたが、私が取り組んでいる顎関節組織でのPrg4の発現に焦点を当てた研究は少ないことから、関心を示してくださった先生方とディスカッションさせていただくことができ、大変貴重な経験となりました。また、今後の研究課題と論文のDiscussionにつながる重要なご意見を得ることができました。

紹介演題 [1]
Mineralisation and collagen fibre compaction of recently formed bone differs between younger and older women, and is region-specific

キーワード

オステオン、機械的負荷、高齢女性

研究グループ

Mary Louise Fac, The University of Melbourne, Australia

サマリー

本研究は、高齢女性が生成するミネラルやコラーゲンに欠陥のある新生骨において、この欠陥が皮質骨の多孔性に応じて部位ごとに異なると仮定し、検証することを目的とした。
健康な若年女性(20-40歳)および高齢女性(77-95歳)の大腿骨中間部サンプルをそれぞれ10検体用いて、多孔性の増加が最も顕著な大腿骨後部と最も少ない大腿骨外側の評価をμCTにて、またミネラルの蓄積、コラーゲンの圧縮、炭酸塩置換の評価は、オステオン(骨細胞を中心とした骨単位)においてシンクロトロンベースの顕微フーリエ変換赤外分光分析(FT-IR)で測定された。結果として、高齢女性の骨芽細胞は若年女性と比べてより圧縮されたコラーゲンを沈着させており、これは皮質骨の多孔性とは無関係であった。大腿骨外側では、これが炭酸塩を含むミネラルの増加と関連していたが、後部ではこの関係が見られなかった。このことは、高齢女性が部位特異的な変異を伴う、質の良くない骨成分を生成しており、機械的負荷による差と関連している可能性があると示唆された。

コメント

高齢女性が生成する骨材料における欠陥の違いを、骨細胞を中心としたオステオンという単位を設定し、部位ごとに異なる多孔性や機械的負荷の影響と関連付けて検証した本研究は、高齢女性における骨の質的変化の理解を深め、骨粗鬆症などの疾患に対する新たなアプローチを提示するものとして、重要な知見を提供した内容でした。また、骨の質が単に密度や構造だけでなく、部位ごとの機能的な差異を反映していることを考慮することで、個別化医療の進展にも寄与する可能性があるのではないかと感じました。

紹介演題 [2]
Rhythmic circulating glucocorticoid levels play a critical role in osteoarthritis driven by chronic disruption of circadian rhythms

キーワード

サーカディアンリズム グルココルチコイド 変形性関節症

研究グループ

Eugenie Macfarlane, The University of Sydney, Australia

サマリー

本研究は、変形性関節症における環境的なCR (circadian rhythm)の乱れが軟骨細胞におけるグルココルチコイドシグナル伝達によってどのように媒介されるかを検証することを目的とした。

8週間齢雄の軟骨細胞のグルココルチコイド受容体ノックアウトマウス(Col2a1CreERT2/GRflox/flox; GRKO)とその野生型(GRflox/flox; WT)マウスを、正常な12:12時間の明暗周期(非シフト)または毎週12時間の位相シフト、例えるとイギリスとオーストラリアを交互に行き来するような環境で22週間誘導した。結果として、CRの乱れはグルココルチコイドの昼夜のリズムを消失させ、シフトマウスでは覚醒時に通常のコルチコステロンの日内ピークが失われた。また、主要な時計遺伝子であるBmal1のリズミカルな発現は、WTのシフトマウスの大腿骨軟骨組織では消失したが、一方でGRKOシフトマウスでは、Bmal1の軟骨での発現はリズミカルに維持されていたものの、非シフトマウスとは逆の位相で発現していた。組織学的解析では、慢性的なCRの乱れがWTマウスの膝関節軟骨の劣化を引き起こしたが、GRKOマウスではそのような劣化は見られなかった。さらに、サンプル回収の4週間前に内側半月板を不安定化させることで、外傷性の変形性関節症の進行(膝OAモデル)を調べたところ、WTマウスではCRの慢性的な乱れが軟骨の劣化、軟骨下骨の硬化を加速させ、滑膜の肥満細胞浸潤を引き起こしたが、GRKOマウスではこれらの特徴は顕著に軽減されていた。結論として、サーカディアンリズムを調整する軟骨細胞のグルココルチコイドシグナル伝達が、変形性関節症の発症において中心的な役割を果たすことが示唆された。

コメント

変形性関節症に関して、これまでの研究ではサーカディアンリズムの乱れが一因として挙げられていましたが、グルココルチコイドシグナル伝達の重要性が強調された点が非常に興味深く、この研究の結果は、変形性関節症の予防や新たな治療法の開発に繋がる可能性を感じました。

筆者が口演発表を終え、学会のポスター発表会場で配布されていた飲み物で乾杯する様子(現在、指導してくださっている矢野先生(左)と歯学部生のときに指導くださっていた吉村先生(右)と筆者(中央)